「恋って、認めて。先生」

 あれだけ比奈守君を否定していたお母さんも、私につられるように明るい表情で彼を見た。

「まあ、そうなの?お母様が空を見てそのお名前に……」

 比奈守君のお母さんに共感することでだいぶ冷静さを取り戻したのか、お母さんはバツが悪そうに笑って比奈守君に謝った。

「私こそ、飛星のためとはいえ、さっきは言い過ぎたかもしれないわね……。親御さんのことまで悪く言ってごめんなさいね」
「気にしていません。俺が生意気だったから……」

 さっき、あれだけ比奈守君を責め立てていたのと同じ人とは思えないくらい、お母さんは穏やかだった。色々事情を話してスッキリしたのだろうか?それとも、お母さんの出産体験はそれだけ癒し効果があるとでもいうのだろうか?あるいは、その両方なのかもしれない。

「懐かしいな。あれからもう25年も経つのか……。私も歳を取るわけだ」

 お母さんの変化に引っ張られたのか、お父さんまでそんなことを言い出したので、比奈守君も私も戸惑った。

「可愛いのは子供のうちだけかと思っていたが、いくつになっても自分の子は可愛いものだな。嫌がられると分かっていても、つい色々と口を出してしまう」
「お父さん……」

 そんな風に思われてるなんて、思わなかった。お母さんもだけど、お父さんの胸の内をこうしてじっくり聞くことなんて今まで全くなかったから……。

 嫌がらせで比奈守君との交際を反対していたわけじゃなかった。お見合いをゴリ押ししてきたわけじゃなかった。

 お父さんとお母さんの想いを知って、何とも言えない気持ちになる。そんな話を聞いたからと言って比奈守君と別れる気にはならないし、積極的にお見合いします!なんて言えないけど……。

 比奈守君も何かを感じたのか、先ほどとは違い大人しくなった。


 5分くらい沈黙が続いた後、比奈守君は、再び口を開いた。

「こうやって話が出来て本当に良かったです。俺は、この先もこういうことがあればいいと思ってます」

 それは、一生ウチの親と関わりたい。遠回しに結婚を約束してくれているような言葉だった。

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