「恋って、認めて。先生」
お母さんもお母さんで、真剣だ。
そこまで言われると、私はとうとう何も言い返せなくなる。
私達のやり取りを見ていたお父さんと比奈守君。先に口を出したのは比奈守君だった。
「分かりました。俺、大学は行かずに就職します」
「えっ!?」
私はもちろん、お父さんとお母さんも驚きの表情で比奈守君を見た。
比奈守君はそんなこと気にせず、いつも通りの口調で淡々と言葉を継いだ。
「高校卒業したらすぐに就職して飛星と結婚します。それなら、付き合うこと認めてもらえますか?」
「何でそうなるの!?」
私は真っ先にそれを反対した。
「比奈守君には夢が……。教師になりたいんでしょ?だったら行きたい大学に行かなきゃダメだよ!絶対後悔するから!」
「後悔はするかもしれない。でも、今飛星と別れる方が後悔する」
それまでにないほど頑固に、比奈守君は私の反対意見を無視した。
「大学はいつでも行けるけど、飛星はひとりしかいない。今別れたら取り返しがつかないと思う。俺は別れたくないし、夢より飛星の方が大事だよ」
「そんな……」
そこまで強く想われて、嬉しくないわけない。幸せだった。でも、だからって夢を犠牲にするなんて違う気がする。心から素直に喜べないーー。
私の心情などおかまいなしに、お父さんはここへ来て初めての笑顔を見せた。
「分かった。そこまで言うなら認めよう」
ウソでしょ!?信じられない。
「お父さん、本気!?さっきまであんなに反対してたのに!?」
「比奈守君は夢よりお前を選んだんだ。そういう男なら信用できる。若いのによく決断してくれた」
お母さんも喜びをあらわにした。
「高校卒業後って言ったら、あと1年もないわね。数年以内には孫の顔が見れるかもしれないのね〜!今から楽しみだわ」
「そんな、ちょっと待って?二人とも本気?」
完全に置いてけぼりを食らう私に、お母さんは満面の笑みを見せた。
「良かったわ!これで幸せになれるわね!お父さんの胃潰瘍が完治すればめでたいことづくしよ」
比奈守君も微笑して二人を見ていた。
比奈守君が就職を決めたことでウチの親の機嫌はあっさり良くなり、アパートを引き払う話も携帯電話解約の件もナシになった。それと同時に、まだ先だと思っていた結婚話が急に現実味をおびた。
私達の交際も認めてもらえた。皆幸せそう。なのに、当事者の私だけが、どうしても喜べなかった。