「恋って、認めて。先生」
「やっと笑ったな」
琉生が嬉しそうに言った。
「何があったか知らないけど、明日は楽しめるといいな」
あれだけ合コン参加に否定的だった琉生がそんなことを言うなんてビックリだった。琉生をそうさせてしまうほど、最近の私はおかしかったのだろうか。
「琉生、ありがとう」
感謝を込めて、私は言った。
「今はまだ気持ちの整理ができてなくてうまく話せないけど、そのうち話すね。その時は聞いてほしい」
純菜と琉生はうなずき、
「分かったよ。待ってる」
「おうよ。あんま思いつめるなよ?」
翌日。仕事が終わるなり、私は急いで学校を後にした。純菜やエモとの待ち合わせまで、もう時間がない。駅まで走った。
合コンをするお店に向かう前に、私達は駅で待ち合わせることにしていた。先日、エモの提案で食事をしたのもあり、初対面同士の純菜とエモは仲良くなっていた。
純菜やエモも今日は早く仕事を切り上げてきたらしく、私より早く職場を後にしたとラインが来た。
合コンには乗り気でなくても、人との待ち合わせに遅れるなんて申し訳ない。急いで改札を通り、駅内のトイレで服装を変え、何とか快速電車に乗ることが出来た。これで二人との待ち合わせには遅刻せずにすむ。
仕事用の服で参加するわけにもいかないので、プライベート用の服をあらかじめ持って来ておいた。
空いた席に腰を下ろすなりホッとし、改めてスマホで時間を確認すると、比奈守君からラインが来た。
《これから会える?》
スマホを操作する手が止まった。
結婚の話が決まったあの日から数日が経った。その間、彼から何回かおなじメッセージをもらっていたけど、私は理由をつけて比奈守君と会うのを断り続けていた。
夢を諦めて就職する。そう言った彼の言葉が、今でもやっぱり納得できないから……。
お父さん達は喜び、結婚式場のパンフレットなんかをバンバン送りつけてくるけど、あの時私の中に生まれた微妙な感覚は消えないまま、今も胸の中に重たくとどまっている。
比奈守君のことは好きだし会いたい。こんな風に避けるのも悲しい。だけど、このままただ流されるだけではいけない、そんな気もした。
《ごめんね。今日は人と会う約束があるから会えないよ。》
そう返信すると、比奈守君からすぐにラインが返ってきた。
《分かった。夜、電話する。声、聞きたい。》
嬉しかった。今でも彼は私のことだけを想い、一途な気持ちを保ってくれている。
私も、いい加減比奈守君の声が聞きたい。彼を抱きしめたい。抱きしめられたい。
でも、まっすぐな気持ちでそう言えないことに気付いた私は、そのままカバンの中にスマホをしまい、比奈守君に返信しなかった。