「恋って、認めて。先生」
ためらいがちに、純菜が言った。
「あれだけ男の人がいると、中にはアミさんのこと好きな人がいそうだなって思ってさ。そういう人にはあまり話しかけない方がいいかなって」
「そんなの気にすることないよ〜」
陽気に、エモは言った。
「たしかにアミ先輩はモテるけど、あの人達はそういうんじゃないって言ってたよ。皆、ちょっと前まで彼女いた人達ばっかりだし」
「そっか。なら、変に気遣うことなかったね」
「そうだよ〜!みんなかっこいいし、話合う人がいるといいね!もし気になる人が出来たら、私とアミ先輩で協力するよ?」
「うん。ありがとう」
純菜は穏やかに笑った。
彼氏がいるエモや私と違って、純菜はどこかここでの出会いを楽しみにしている様子だった。
純菜にとって楽しい場になるといいな。そう思っていると、アミさんが声をかけて来た。
「まだ全員来てないけど、外暑いし、先に中入ってよっか」
地下1階の店。誘導してくれるアミさんの背中を追い、私達は店に入った。外からは分からないほど店内は広く、大人っぽさ漂うシックな雰囲気に満ちていた。
10人くらい一緒に座れる個室のテーブル席に通されると、完全に他の客と遮断され、合コン独特の空気が出来上がる。
まだ全員そろっていないけど、夕方とはいえ外は暑かったので、喉を潤すため、皆それぞれにビールやカクテルを注文し始めた。アミさんはあらかじめ、食べ放題飲み放題3時間コースを予約していたらしい。
「飛星ちゃん、これ、メニュー」
向かいに座るアミさんがメニューを差し出し話しかけてきた。
「飛星ちゃん彼氏いるんだって?今日は無理に付き合わせる形になって本当にごめんね。遠慮しないでどんどん飲んでいいから!」
「ありがとうございます」
「お酒、強い方?」
「はい、わりと」
「すごーい!そんな飲むんだ!?」
「普段はあまり飲まないようにしてますけど、学生の頃は付き合いでけっこう飲んでました」
「やっぱり、就職すると飲むペース変わるよね。仕事何してるの?」
「高校の教師やってます。こんなんですが……」
なんか、年上のお姉さんを…アミさんみたいに完璧な人を前に職業を語るのは照れくさかった。
「飛星ちゃん、教師なんだ!」
アミさんは目を見開き、少しうわずった声で反応した。動揺しているように見えたけど、それは気のせいだったのか、それまで通り明るい口調でアミさんは話を続けた。
「すごーい!採用試験、大変だったんじゃない?」
「はい。かなり難しかったです。あんまり勉強してなかったので、受かるのギリギリでした」
「やっぱり難しいんだ!でも、受かるなんてすごいよ、尊敬する。実は、まだここに来てないアイツも高校教師してるの!」
「そうなんですか!?すごい偶然!」
「ねー!」
驚いた。「アイツ」って多分アミさんの好きな人のことだよね?その人も高校の先生なんだ。
イキイキ話すアミさんは、次に、純菜に話を振った。
「純菜ちゃんは今彼氏いないんだよね?」
「はい。最近はほとんどそういうのないですね」
「そうなんだ!?可愛いのにね。仕事は?」
「派遣社員で、ここ数年は食品工場に行ってます」
「そうなんだ!出会いとか限られてる感じ?」
「はい。私の居る部署は女の人が多いので、なかなかそういうのは」
「だったら、ここで何かあるといいね」
そう言い、純菜の手を引くと、アミさんは席替えを提案した。
「せっかくこうやって集まったんだし、男女混合に座ろ!」
「いいね、俺らもそうしたい!」
男性陣からはテンション高く賛成の声が上がり、私は、純菜やエモと離れて座らなければならなくなった。