「恋って、認めて。先生」

 トボトボした足取りでアパートに戻り、室内の涼しい風を感じながらベッドに突っ伏した。抑えようとしても、涙が止まらない。

 距離を置くって、どのくらいの間ーー?
 1週間?それとも1ヶ月?もっと?

 その間、会うことはもちろん、電話やラインもしたらダメなんだよね?

 初めてのことに混乱し、色々考え、私はものすごく不安になった。

 さっきみたく言い合いにならないために距離を置く……。その理屈は分かったし、さっき比奈守君からそう告げられた時はそうするしかないと思ってしまったけど、こうして少し落ち着いて考えると、とんでもない選択をしてしまった気がする。

 距離を置く。それで本当に良かったのかな……?

 離れている間に気持ちが変わることだってある。それがいい方向に行けばいいけど、悪い方向に向かうことだって充分あるよね……。

 さっきは好きだと言ってくれたけど、会わない間に比奈守君の気持ちが冷めてしまうかもしれない。合コン行ったり永田先生と帰ってきたりと、ただでさえ印象最悪なことをしてるんだ。彼女として嫌われる理由がたくさんありすぎる…!

 第一、比奈守君はそういう私を理解できないとハッキリ言った……。

「距離を置くなんて口実で、このまま自然消滅するつもりなんじゃ……!」

 それだけは嫌!

 最悪の結果が見え、胸が震える。


 ……私、比奈守君がいなくなったらどうなるんだろう?


 彼に出会う前は一生女ひとりで生きていくと豪語していたけど、比奈守君と別れた後、私はちゃんと生きていけるのかな?

 彼の優しさを知って、たまに意地悪されて、だけど愛しくて、大切だった。そんな気持ちを知ってしまったら、もう、前の自分には戻れない……!

 弱くなったな、私は……。ううん、元々そんなに強くはなかった。

 その気になればひとりでも生きていけるかもしれないけど、それは口で言うほど生易しいことではない。だって、人を好きになり、相手を想える。人間はそういう生き物だから。ひとりぼっちは寂しい、そういう風にできてるんだーー。

 ……考えを巡らせていると、

「飛星、帰ってるー?」

 合鍵を使い、純菜が入ってきた。

「どうしたの!?遠藤さんって人と一緒なんじゃ…!」
「さっきまで一緒にいたけど、この通り、今はひとりだよ」

 苦笑いをし、いつもの位置に座ると、純菜は差し入れのアイスココアをくれる。
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