「恋って、認めて。先生」

 純菜や琉生のおかげでリラックスしていた気持ちが、再び緊張感に染まる。

「どうしよう、緊張でお腹がしめつけられる」
「大丈夫だよ、飛星。私達も一緒だから」


 もう遅い時間なので、いくら親の店とはいえ高校生の比奈守君が働いているはずがない。そう自分に言い聞かせることで気持ちを落ち着け、なんとか店に入った。

 店内は混んでいる。忙しいのか、比奈守君のご両親は厨房にいるようだ。ホッとする。


 琉生達の食事もそこそこに1時間が経った頃、琉生が大学生らしきアルバイトの男の子を呼び止めた。

「すいません、ここの息子さんって今いますか?」
「いえ、夕君は自宅の方にいると聞いてます。何か用事でしたらオーナーにお伝えしましょうか?」
「お願いします。佐木崎です」
「佐木崎様ですね。かしこまりました。少々お待ちください」

 店員が奥に引っ込んだのを見届けるなり、琉生が言った。

「比奈守君には会えなくても、飛星がここへ来たことは伝えておかないとと思ってな」

 琉生なりにフォローしてくれている。その気持ちは嬉しかったけど、不安の方が勝ってしまう。私が店に来たことを知ったら、比奈守君は嫌がるんじゃないかって。


 それからすぐに、比奈守君のお父さんが三人分のソフトクリームを持って私達の席へ来た。さっきの店員さんから琉生の伝言を聞いたらしい。

「先生、元気?悪いけど夕ならもう上で寝てるよ」

 比奈守君のお父さんは目線で上を示し、私達にソフトクリームを配った。この建物は一階が店舗で二階と三階は自宅になっているらしい。

「いつもありがとね」
「こちらこそありがとうございます。お忙しいのに、わざわざすいません」
「いいってことよ」

 ひょうきんなお父さんはニカッと笑い、私達に視線を向けた。

「そういやぁ、夕のやつ、塾やめたかと思ったら急にバイト始めたんだよ」
「そうなんですか?」

 塾をやめたとは聞いたけど、新しくバイトを始めたなんて知らなかった。

「あ、しまった。これ、夕には口止めされてたんだったなぁ」

 悪びれなくお父さんは言った。

「先生との将来のために貯金したいとか言ってたなぁ。ちょっと前までは自分の欲しい物のことしか考えてなかったのに、成長したもんだよ。先生のおかげだな。これからも仲良くしたってくれよ」

 嬉しそうに言い、お父さんは厨房に戻っていった。
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