「恋って、認めて。先生」

「こうやって前向きになれたのは、永田先生のおかげでもあるんです」
「僕の……?」
「昨日、言ってくださいましたよね。親は関係ないって」


 その日の昼休み、誰もいない屋上に行き、私はお母さんに電話をした。

「こんな大事な話を電話でするのは悪いと思ったんだけど、私、やっぱり比奈守君とは結婚できない。お父さんにもそう伝えておいてくれる?」
『何言ってるの!?分かったわ、比奈守さんの気持ちが変わった、そうなのね?』
「違うよ。そうじゃない。彼には教師になるっていう夢があるの。私はそれを応援したいから」
『そんなこと言ってたらいつ結婚できるか分からないでしょ!?お父さんだって反対するに決まってるわ!』

 予想通り、お母さんは涙声で怒り始めた。だけど私はもうひるまない。

「アパート引き払ってもらってもいい。今使ってるスマホも解約する。それでお母さん達の気がすむなら。だから、その代わり、比奈守君の夢を邪魔することだけはしないでほしい…!」
『そんなこと言ったって、アンタの幸せはどうなるのよ……。来年にはアンタの花嫁姿が見られるって知って、お父さんの体調も良くなりつつあったのに……』
「お父さんとお母さんが私の幸せを願ってくれてるように、私も比奈守君の幸せを願ってるの。結婚以外の親孝行なら何だってするから、分かってほしい。お願いします……!」

 元々結婚結婚とうるさかった両親がそんな電話ひとつで理解してくれるはずもなく、この日を境に私は再び両親とギクシャクするようになった。でも、折れる気は全くない。

 強くならないと、私も。

 比奈守君が塾をやめてバイトを始めたみたいに、目に見える変化を起こさないとーー!


 距離を置くことが決まって早3日。

 当たり前のように来ていた比奈守君からの電話やラインがぱったり来なくなって、私は想像以上に衝撃を受けていた。

 アパートには毎日のように純菜と琉生が来てくれたけど、そこでは癒せない寂しさがじわじわと胸を侵食していくようで……。

 今日から、学校で二週間の夏期講習が始まる。

 最初比奈守君はこれに参加すると言っていたけど、塾をやめてバイトを始めたとのことだし、彼は来ないだろう。寂しいようなホッとしたような……。
< 184 / 233 >

この作品をシェア

pagetop