「恋って、認めて。先生」
二人の会話を立ち聞きするのをやめ、フラフラした足取りで職員室に戻ると、永田先生が駆け寄ってきた。
「さっき田宮君が職員室に来て、大城先生のこと探してたよ。しばらくはここで待ってたんだけど、今は裏門で待ってるって」
「分かりました。行ってみますね。ありがとうございます」
そういえば、講習が始まる前にも何か言いたそうにしていたっけ。次の講習の準備もあるので、私は急いで裏門に居る田宮君の元へ向かった。
「田宮君、職員室に来てくれたんだって?何だった?」
「コレ……」
田宮君がためらいがちに差し出したのは、夏休み前プールで失くしたはずのネックレスだった。比奈守君からもらった、初めてのプレゼント。
「やっぱり、あっちゃんのだったんだ。してるの見た気がしたから」
「ありがとう!見つけてわざわざ持ってきてくれたの?ごめんね」
田宮君から受け取ったネックレスには、落とした時と比べて無数の細かい傷があり、チェーンの部分が切れてしまっていた。
「あっちゃんがプールの授業見た日に、プールサイドに落ちてるの見つけたんだ。その時にはもう壊れてて……」
チェーンが切れたせいで、あの日落としてしまったんだ。たまにお風呂に入る時もつけっぱなしにしていたから、早く劣化してしまったのかもしれないな……。
「大事な物なんでしょ?なかなか返せなくてごめんね。皆の前で渡すとまたからかわれるかと思って、今まで言い出せなかったんだ」
「ううん、いいの。見つかって良かったよ。本当にありがとね」
さっきのことが頭をよぎり、正直なことを言うとネックレスが見つかってもそんなに喜べなかった。壊れたネックレスは、まるで比奈守君と私の関係を表しているように見えて……。
ネックレスを手にしてうつむく私に、田宮君が気遣わしげな視線を向けた。
「それ、彼氏にもらったの?」
意表を突かれ、私は動揺した。
「ううん、彼氏なんていないよ」
「そうなの?悲しそうな顔するから、そうなんだと思った」
安堵の表情を浮かべ、田宮君は言った。
「こういうこと先生に言うのダメって分かってるけど……。俺、あっちゃんのこと好きみたい」
「そうなの?どうして?」
つい、普通にそんなことを訊いてしまった。ドキドキ感より、意外性の方が勝ってしまう。
比奈守君に告白された時は真面目に受け取ってドキドキしたのに、この時は自分でもビックリするほど冷静だった。