「恋って、認めて。先生」
12 最後の言葉
「どうしてって、優しいとことか……」
田宮君は照れながら言った。
「先生だし、年上だけど、あっちゃんって可愛いし……」
……田宮君がそんな風に思ってるなんて。
生徒一人一人に対して、できるだけ丁寧に接してきたつもりだけど、それは優しさとは違う。今年受け持つことになったA組の生徒達は素直で優しい子ばかりだから私もプライベートに近い姿でいられた。それはたしかだけど……。
「返事はいらないよ」
田宮君は困ったように笑い、彼らしい明るい口調で告白をしめくくった。
「あっちゃんが生徒のことそういう風に見てないの、分かってるから。ただ、気持ち伝えたかっただけ」
「そっか……。ありがとう」
「でも、俺にとってはこの先ずっと忘れられない先生だよ。だから、好きになったこと覚えておいてほしかった。じゃあ、また明日講習でね!バイバイっ!」
私が何かを言う前に、田宮君は元気に手を振り3年生の教室に戻っていった。まだ今日受けていない教科の講習を受けるつもりらしい。
田宮君に好かれて嬉しかった。でもそれは、異性に好かれて嬉しいという感じではなく、先生として生徒に慕われることの喜びだった。嫌われるより絶対いい。
告白を断るのは相手が誰であれ多少罪悪感があるけど、それを感じずに済んだのは助かる。田宮君の気遣いに感謝した。
「覚えておいてほしい、か……」
田宮君、アミさんと同じことを言っていたな。
永田先生には結局訊かなかったけど、アミさんは永田先生に気持ちを伝えたんだろう。その後二人がどうなったのか少しだけ気になるけど、私には関係ないことだし、詮索するのはやめておこう。
夏期講習が始まって一週間が経った。
バイトがあるのか、比奈守君は来ない日もあったけど、ほぼ毎日のように現代文の講習には出ていた。彼が参加するのは現代文の講習だけで、その他の科目には顔を出していないと、永田先生が言った。
「彼、君のこと放っておけないんじゃない?可愛いとこあるな。意地張らないでさっさと連絡してこればいいのにね」
「永田先生っ……!」
永田先生と二人だけになると、そうやって気軽に恋愛のことを話せるようになっていた。合コンがキッカケでプライベートな時間を共有したおかげだろうか。
3年生の生徒に対して行う夏期講習も残りわずかとなったある日、いつも通り現代文の講習をしていると、妙に生徒達の視線を感じ、違和感を覚えた。