「恋って、認めて。先生」
翌日は休みだった。
久しぶりに気を抜けるはずの休日も、比奈守君との別れを決めたことで緊張感に満ちたものに変わる。
別れるのだから、もう直接会わない方がいい。お互いのためにも、ラインかショートメールでさよならを告げよう。
一瞬そんな考えが頭をよぎったけど、それはやめた。まるで、いつでも簡単に別れられる手軽な交際だったと言わんばかりの、誠意のないやり方に思えたから。
とはいえ、気持ち的には、もう会いたくない。会ってしまえば、好きの感情を抑えて彼に接する自信がないし、そんな風ではとても別れ話なんてできない……。
ぐちゃぐちゃ考えず、一方的に別れのメールなりラインなり送ってしまおうか……。
比奈守君から電話がかかってきたのは、まさに、そうやって悩んでいる最中のことだった。
離れているのに、まるでそばにいるかのようにお互いの考えがシンクロした気がして、変な汗をかいてしまう。
この場から逃げ出してしまいたくなったけど、もともと連絡するつもりだったし、無視するわけにもいかない。
「もしもし……」
電話に出た私の声は思っていた以上に低くなってしまい、それがよけい自分を緊張させた。
『久しぶり。元気にしてる?』
「うん……」
内心ドキドキしっぱなしの私とは正反対に、比奈守君はとても落ち着いていた。すれ違ったことなど忘れたかのように、穏やかな声。
「夏期講習の時以来だね」
『うん……。今、時間大丈夫?』
「大丈夫だよ。ひとりだから」
距離を置いていたことがウソみたいに感じる普通の会話。ホッとするはずのその時間も、別れを意識したせいで物悲しい……。
別れよ。そう言おうとした時、電話の向こうから比奈守君が言った。
『……この前はひどいこと言って本当にごめん。勝手なこと言ってるの分かってるけど、会いたい』
それは、前と変わらない、冷静だけど奥に愛情を感じる比奈守君の声。
別れる必要なんてない!好きなんだから何とかなる。
ーー比奈守君の声を聞いた瞬間そんな想いが胸いっぱいに広がったけど、その次には、彼の可能性を潰すことの重大さが重たくのしかかってきたので、私は強く首を横に振った。
「私も会いたい」
比奈守君が私のアパートに来たのは、それから1時間後のことだった。
別れを決めた以上自室に彼を呼ぶなんて普通ではありえないけど、こんな時ですら私達は人目を気にしなければならない。仕方なく、ここを使うしかなかった。