「恋って、認めて。先生」

 そんなアミさんの明るさやひたむきさが、私にはまぶしすぎて胸が痛んだ。

 私もいつか、アミさんのように好きな人のことをキレイさっぱり吹っ切れるだろうか?比奈守君とのことを思い出して泣く日を減らせるだろうか。

 ーー…ひとり、そんなことを考え込んでいたものだから、永田先生をさらに心配させてしまったらしい。

「思いつめた顔して、どうした?」
「いえっ。今日から始業式ですし、久しぶりに生徒と会えるんだな〜って考えてました」
「ふーん?そういうことにしておくよ」
「永田先生、深読みし過ぎですよ」
「そう?」

 普段と変わらず軽口を言い合い、永田先生と私はそろって職員室を出た。そのまま一緒に3年生の教室がある階まで向かっていると、昇降口から各教室に向かう生徒達とすれ違った。

「おはようございます」
「おはよう」

 生徒達と挨拶を交わしていると視線を感じた。それは、昇降口からこちらへやってくる比奈守君のものだった。

 校内ならどこででも会う可能性はある。分かっていたけど、こんなにすぐ彼に出くわすとは思っていなかったので、私は激しく動揺した。

「おはようございます」

 すれ違いざま挨拶をした比奈守君は、一度だけ私と目を合わせすぐにそらすと、私の横を通って教室へ向かった。その目つきは、私の知る比奈守君とは全くの別人みたいだった。

 胸がズキンとする。自分から別れを切り出したくせに、私に対して一線を引いた彼の雰囲気に傷付いてしまう。

「なんか彼、また雰囲気変わったね。以前の落ち着き加減とはまた違って無感情というか」

 ちょうど周りに誰もいなかったからか、永田先生が腑(ふ)に落ちないといった顔で言う。

「少し前までは、隠してるようで隠せてなかったのにね。君を好きってこと」
「……私達、別れたんです」
「え……?」

 それまでの穏やかな口調は消え、永田先生は深刻な顔をした。

「本当に?」
「はい。私には彼の未来まで束縛する資格も度胸もありませんでした」
「最近様子がおかしいなとは思ってたけど……。よく決めたね。つらかったでしょ……」
「彼の可能性を奪うよりマシです。……そう思わなきゃやってられませんから」

 わざと笑顔を作った。涙が出ないように。

 気の毒そうに見つめてくる永田先生の顔に気付かないふりをして、私はA組の教室に入ったのだった。
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