「恋って、認めて。先生」
「あっちゃん、ちょっといい??」
教室に入るなり、井川さんが私のところに駆け寄ってきた。彼女はA組の中でも話しやすい生徒のうちのひとりで、他の生徒達からも慕われている明るい子だ。
いつも快活な彼女の曇った表情を見て、私は嫌な予感がした。
「井川さん、おはよう。どうしたの?」
「他のクラスでウワサになってるんだけど……。あっちゃんが夏期講習中に田宮君のこと誘惑してたって……」
「田宮君を?どうしてそんな……」
「夏期講習に行ったB組の子達が見てたらしいの。あっちゃんと田宮君が裏門で話してるところ……」
「教えてくれてありがとう。田宮君とは話してたけど、やましいことは何もないよ。落とし物を拾ってもらっただけなの」
「そうだったんだ。私もそんなウワサ信じてないけど、他のクラスに田宮君のこと好きだった女子がいるらしいからちょっと心配になってさ……」
「心配かけてごめんね」
「ううん!あっちゃんがそんなことするわけないもん、今度ウワサ聞いたら否定しとくね!」
「気持ちは嬉しいけど、そのままで大丈夫だよ。こじれると井川さんまで大変な思いをするかもしれないし、その気持ちだけ受け取っておくね、本当にありがとう」
「あっちゃん……。わかったよ」
井川さんを巻き込むわけにはいかないし、生徒の手前、冷静にそう言ったけど、内心不安でいっぱいだった。
多分、田宮君がネックレスを届けてくれた時のことがウワサになったんだろうけど、誘惑だなんて……。そんな大きなウワサに発展しているなんて思わなかった。
夏期講習中、一部の女子生徒が私に反抗的だったのも田宮君とのウワサを信じたからなのかな……。納得できない気持ちもあるけど、こればかりはどうしようもない。
自業自得。そもそも、学校にネックレスなんてしていった私が悪かったんだ……。
3年生の生徒達は少なからず受験のストレスがたまっている。ウワサ話で色々盛り上がることでうっぷんを晴らしている部分もあるのかもしれない。
比奈守君と付き合って、毎日が楽しくて、不安もあったけど幸せで、私は完全に浮かれていた。でももう彼とは別れたのだし、今日からは気持ちを引きしめていかないと!私は教師なんだから…!
だけど、そんな気合いもむなしく、さらに心折る出来事が起きた。