「恋って、認めて。先生」
始業式。集まった生徒達を眺めながら、体育館の隅で教師の列に並んでいると、3年生の生徒達のどこかから、女子生徒の声がした。
「大城が!?永田先生、見る目ないよー!」
大城って、私のことだよね?3年生にはそんな名字の生徒はいないはずだから。しかも、永田先生がらみの話?
田宮君のウワサと違い、永田先生に関しては色々と心当たりがあるので、どうしても深く考えてしまう。見てる生徒は見ている、そういうことなんだろうか……。
最近、疲れているのに熟睡できない。そのせいか、始業式が終わる頃、頭痛がしはじめた。
始業式が終わると、各クラスでショートホームルームを行い、生徒達は昼前に帰宅した。今日、通常授業じゃなくて良かった……。
ウワサのことは永田先生の耳にも入ったらしい。職員室に戻り、永田先生が淹れてくれた温かい緑茶を飲みながらホッとしていると、
「大城先生がウワサされるの初めてじゃない?大丈夫?田宮君って、夏期講習にも来てたA組の生徒でしょ?」
「そうです。正直まいりました……。ウワサはすぐには消えないだろうし」
「僕も出来るだけフォローするから、あまり気にしちゃダメだよ。しょせんウワサだから」
「そうですね。堂々としてます」
私の恋愛事情をよく知る永田先生は、はなから田宮君関連のウワサは信じていない。どんな形でも、自分を信じてくれる人がいるのは心強い。改めて永田先生に感謝していると、校長先生に話しかけられた。
「大城先生。お話があるので校長室に来て下さい。永田先生もご一緒に」
私は永田先生と目を合わせ、彼と同時に「はい」と返事した。永田先生は落ち着いていたけど、こんな風に校長先生から呼び出されたのは初めてで私はお腹が痛くなった。
田宮君とのウワサが校長先生の耳にまで届いてしまったのだろうか。本当のことを話したところで、教師歴の浅い私の意見なんて信じてもらえないかもしれない。
悪い想像で頭の中をいっぱいにしながら永田先生と共に校長室に入ると、校長先生はおもむろに1枚の写真を見せてくる。
「名前は言えませんが、これは3年生のとある生徒から受け取りました。スマートフォンで撮影しプリントアウトしたそうです。大城先生、永田先生、これはどういうことなのか、お話いただけますか?」
「それは……!」
職員会議でどれだけ話題にされてもひょうひょうとしていた永田先生が、この時は珍しくうろたえた。
それは、永田先生の肩にもたれて眠る私の写真だった。