「恋って、認めて。先生」
「誰だって酔いたい気分になる時はあるよ。あの時は君も悩んでたんだから、仕方ない」
「そうですが、でも……」
自分の未熟さが心底嫌になった。私生活も仕事もダメなとこだらけ……。
先にベンチに座った永田先生は、私の手を引き強引に横に座らせた。生徒達は帰った後なので、人目を気にせず素直に腰を下ろす。
「教師は、生徒の前で大人の見本的な姿見せなきゃならない仕事だけど、プライベートでくらい息抜きしたっていいでしょ。むしろ、プライベートまで不自由でいたらどこで息抜きするの?って話だし」
「それはそうかもしれませんが……」
「君は悪くない。僕も悪くない。校長先生だって分かってると思うよ。立場上、注意しとかなきゃー程度だろうし」
「そうでしょうか……」
「こういうの毎回本気で受け止めてたら、この仕事は身がもたないよ。聞いたふりで無視しとくくらいがちょうどいい」
永田先生の励ましが嬉しかった。教師でいるのがしんどいと思ったのはこれが初めてで、だからこそ深刻に悩んでしまったけど、私は私のままでいい、そう言われた気がして安心する。
「ま、そこが大城先生のいいとこなんだけどね。そろそろ仕事に戻るかなー」
ベンチから立ち上がり、永田先生は職員室に戻っていった。
比奈守君とのことも訊かずにいてくれるし、今回も迷惑をかけてしまったのにああやって言ってくれて、いい人だな。
私も永田先生みたいに強くなりたい。今すぐは無理でも、少しずつ。
頭とお腹が痛いので、しばらくベンチに座りぼんやり休んでいると、中庭に人の気配がした。上靴独特のヒタヒタとした静かな足音。まだ下校してない子がいたんだ…!
ウワサの件もあるし、今は気分的にどの生徒とも二人きりにはなりたくない。足音を立てないようにそっと中庭を出ようとすると、
「先生。動きが不審者ですよ」
いつかと同じ口調で、よく知る声がそう言った。勢いよく振り返ると、やはり、それは比奈守君だった。
普通に話しかけてくれたことが嬉しくて、目が潤んでくる。だけど、今朝の比奈守君を思い出し、顔がこわばってしまった。
「比奈守君、まだ残ってたの?」
「忘れ物したので」
「そう……」
初めて言葉を交わした春先と同じく、比奈守君はポーカーフェイスで自販機にお金を入れた。
そっけない口調で渡されたイチゴオレのことを思い出し、切なくなる。