「恋って、認めて。先生」
翌日から通常授業が始まった。
『飛星は何も悪くないよ。私達は何があっても味方だから!』
『お前のこと理解してくれてる生徒が一人でもいるなら大丈夫だ』
昨日、久しぶりに純菜と琉生がアパートに来てくれたおかげで、私はなんとかこうしていつも通り教壇に立てているけど、比奈守君に言われたセリフは胸にささったまま、消えることはなかった。
純菜と琉生にも、昨日とうとう比奈守君と別れたことを話したけど、中庭での彼とのやり取りについては話すことができなかった。
二人は最初、私達の別れに納得できないといった顔をしていたけど、最後には、別れを決めた時の私の考えや気持ちを理解してくれた。
だけど、私は気付いてしまった。比奈守君に夢を叶えてほしい。その一方で、いつまでも彼に私のことを好きでいてほしい。そう願っていた自分に……。
比奈守君は、さすが7歳年下なだけある。若いって素晴らしい。涙を流すほど別れがつらくても、数日経ったら「冷めた」と言えてしまうんだから……。
「大城先生、考え事ですかぁ?」
いけない。授業中だというのに考え事をしてしまった。女子生徒の声で我にかえる。
今は、3年B組、永田先生のクラスで現代文の授業をしている最中だ。
「すみません。それでは次の人、続きを朗読して下さい」
あわてて指示を出すと、何人かの女子生徒に睨まれる。
「大城先生のために朗読なんて、したくありませーん」
「私もー」
何を言ってるの?
夏期講習の時とは比べものにならない女子生徒達の反発に、私はひどく戸惑った。だけど、弱気になってなめられるのはもっとまずい。
私は気丈に言った。
「これはあなた達のための朗読ですよ。次の人、読んで下さい」
「男に色目使う先生の言うことなんて信用できませーん。現代文の担当、他の先生に変えてほしいでーす」
言葉が出てこない。こんな風にあからさまに拒否の姿勢を示されるのは初めてだった。田宮君や永田先生とのウワサが理由なんだろう。かといってパッと解決策が浮かぶほど器用な思考力は持ち合わせていない。
ここで本当のことを話しても信じてもらえないだろう……。どうしたらいい?
教室内には重たい空気が広がる。私に同情するような視線を送る子もいれば、関わりたくないと言わんばかりに無関心な顔をする子もいる。