「恋って、認めて。先生」
経験が浅くても私は教師。ここでしっかりしないと、他の生徒達にまで迷惑がかかる!
「色々とウワサが流れています。誤解されるようなことをしてごめんなさい。でも、私は、やましいことは何一つしていません」
一刻も早く授業を再開させるため、私は教室を見渡し話をすることにした。心を込めて話せば分かってもらえるはず、そう信じて。
「田宮君には、私がなくしたネックレスを拾ってもらいました。夏期講習中、彼がそれを私に届けてくれたんです。夏休み中に永田先生と一緒にいたことも、特別な意味は一切ありません。私達は同じ職場で色々話せる友人のようなもので……。最近、永田先生との間に共通の友達がいることが分かったので、その人を交えて食事に行きました。永田先生には普段から良くしていただいていますが恋愛関係ではないし、私には恋人なんていません。作る気もないです」
これで分かってもらえただろうか?永田先生のことを好きな女子生徒はたくさんいる。彼女達の誤解を解くため、ウソはひとつも言わなかった。誠心誠意、今の気持ちを伝えたつもりだ。
「は?そんな作り話、信じるわけないって!」
女子生徒から返ってきたのは、期待とは真逆の言葉だった。
「永田先生がアンタを気にしてること、私達が知らないと思った?友達?そう思ってんのアンタだけだよ」
「現代文担当してるクセに人の気持ちには鈍感だよね〜。文章理解する前にそっからやり直せっての」
女子生徒達があざけるように次々と笑い出す。どうしたらいいのか分からず、私も限界だった。
たかがウワサと軽く見ていたことを後悔する。こんなことなら、もっとしっかり対応策を考えておくべきだった…!
ますます異様な雰囲気が漂う。教室の扉が勢い良く開いたのはその時だった。
「いい加減にしなさい!」
強い口調で言い教室の中に入ってきたのは、永田先生だった。雰囲気こそ落ち着いているけど明らかに怒っている。端正な顔が、さらに気迫を感じさせていた。
「え!?先生、何で?」
それまで私にたてついていた女子生徒達が弱腰になる。
「今、僕の授業はなくてね。嫌な予感がして来てみたら……」
永田先生はこちらをいちべつし、女子生徒達に言った。
「僕に告白してきたのは、君と君と君、あとそこの君も、だったね」
永田先生がひょうひょうと指差した相手は、みんな私に反抗していた女子生徒だった。