「恋って、認めて。先生」
永田先生のおかげで私に関するウワサは消えつつあったけど、11月の文化祭を迎える頃になっても、永田先生の発言は生徒達の間で尾を引いているように見えた。
「私が無力だったばかりに、ここまで永田先生に迷惑をかけてしまって本当に申し訳ありません……」
「また謝る。気にしなくていいのに。むしろ言いたいこと言えてスッキリしたのは僕だから逆に礼を言いたいくらいだよ」
文化祭を二日後に控えた、肌寒い秋の放課後。
出し物の準備をする生徒達の様子をそろって見ていた永田先生と私は、少しの間廊下で立ち話をしていた。A組とB組。受け持つクラスが隣同士ということもあり、文化祭の準備が始まって以来、永田先生とはこうして会話することが増えた。
そうしていても女子生徒達に攻撃されなくなったのは、永田先生のおかげに他ならない。それでも敵意のような視線はしょっちゅう感じたけど、授業を妨害されずに済むならそれで良しと思うことにした。
「あれからそろそろ3ヶ月になるな」
「何の話ですか?」
「君が彼と別れてから」
「もうそんなになるんだ……。あっという間でしたね」
「恋人なんていないし作る気もない。あれって本気で言ったの?」
あの日私がB組の生徒達の前で言ったこと。永田先生はまだ覚えていたんだ……。
「本気ですよ。恋愛なんて手強いもの、私には手に負えないです」
「彼を忘れられない、とかじゃなくて?」
「仕事が忙しくて、感傷に浸っているヒマなんてないですよ」
多忙さが失恋の痛みを和らげているのはたしかだけど、比奈守君のことを忘れた日なんて1日もなかった。あれ以来、中庭で偶然会うことは一度もないけど、廊下ですれ違うと彼は普通に挨拶をしてくれる。
もう吹っ切れたからそんな態度をしてくるのだとしても、比奈守君との接点がある、それだけで私は満足だった。
周囲の生徒に聞こえないよう、永田先生は小声で言う。
「別れた相手と毎日顔合わせるのはキツイものがあるよな。忘れたくても忘れられないんじゃない?」
「そうですね……。でも、たとえ顔を合わさない環境に居たとしても忘れることはなかったと思います」
別れたけど、もう二度とつながることはないだろうけど、心の中で好きでいることくらいは許してほしい。