「恋って、認めて。先生」
永田先生は小さくため息をつき、呆れたように比奈守君を見た。
「君、まだ大城先生のこと好きでしょ。こんな時間まで教室に残ってたのも、いつも彼女のそばにいる僕のことを見張ってたからじゃないの?」
「まさか。そこまでしつこくないですよ」
その一言に、胸がじくんと痛くなる。わかってる。比奈守君にとって、私とのことはもう過去のことなんだって……。
その証拠に、比奈守君は一切こっちを見ず、泣きそうな顔でうつむく私にも気付くことはなかった。
「……まあいいや。君も早く帰りなさい」
腑(ふ)に落ちないといった顔で比奈守君を外へ促す永田先生を見て、比奈守君は意味ありげに微笑した。
「永田先生みたいな人は相手にされないと思いますよ。大城先生はもっとひねくれた男が好きですから」
軽く頭を下げ、何事もなかったかのようにさよならの挨拶をすると、比奈守君は帰っていった。
しばしあっけに取られていた永田先生と私は、彼の姿が見えなくなってようやく、口を開くことが出来た。
「……相変わらず可愛げのない生徒だな」
「私も、いまだに彼の考えていることは分かりません……」
本当に彼のことが分からない。生徒としてはもちろん、男の人としても……。
私のことなんてもう関心がない。そう言ったくせに、どうしてわざわざ永田先生にあんなことを?
『大城先生はもっとひねくれた男が好きですから』
まるで、永田先生に私のことを諦めさせるみたいな言葉に聞こえる。それに「ひねくれた男」って……。
その後、永田先生から告白の続きめいた言葉を聞くことはなく、私も何か言ったりはしなかった。
皮肉にも、比奈守君の登場で目が覚めたというのが大きい。永田先生に対するこの気持ちは愛情じゃない。尊敬と友情、それに尽きると気付いた。告白されたって、永田先生を特別な感情で見ることなんて出来ない。
文化祭当日、学校内はとても賑わっていた。この学校は、生徒の保護者や兄弟の他、他校の学生を招けることになっているので、知らない顔もたくさん見かける。
琉生や純菜のことも招待したかったけど、外部の友達を招けるのは生徒だけなので、私はひとり、校内をぶらつくことにした。
ここのところ色々ありすぎて疲れていたけど、文化祭効果なのか、私までつられて明るい気分になった。3年生の生徒達も、受験勉強による疲労感を忘れて目一杯楽しんでいる。
各クラスごとにいろんな出し物をしている。占いカフェや焼きそば喫茶、お化け屋敷にバンドの演奏。校内のどこを歩いても生徒達が楽しんでいる様子を見ることが出来た。