「恋って、認めて。先生」
「……先生も忙しいのに、ここまで送ってくれてありがとうございました」
感情の読めない声でそう言い、比奈守君はどこかへ行ってしまった。
比奈守君と共有する時間がアッサリ終わってしまったことに意外なくらい残念さが残る。ギクシャクしたままでもいいから、もう少しそばにいたかったな……。
そんなことを考えていると、永田先生が口を開いた。
「大城先生。今夜、時間ありますか?」
「え?」
それって、どういう意味のお誘い?永田先生とは職場で一番話すけど、今までプライベートで会ったことはないので、私は返事に詰まった。話なら学校で出来るはずだし……。
私の戸惑いに気付き、永田先生は困ったように笑う。
「いきなりごめんね。深い意味はないんだ。仕事のことでちょっと相談があって……。他の先生や生徒には聞かれたくないことだから、学校じゃない場所で話したくて。付き合ってもらえないかな?」
永田先生はひどく思い詰めた顔でうつむいた。もしかしたら、女子生徒との接し方で悩んでいるのかもしれない。
「はい。私でいいなら……」
「ありがとう!」
永田先生はホッとしたように大きく息をつく。
無事レクリエーションが終わり、生徒達が下校するのを見送った後、私達職員も帰宅時間を迎えた。
学校を出ると職員駐車場に向かい、私は永田先生の車の助手席に乗るよううながされた。永田先生は車通勤をしている。
運転中、学校での気さくさがウソのように永田先生は口数が少なかった。運転の邪魔になるかと思い、こっちからもあまり話しかけないようにした。
男の人と車で出かけるなんて最近全然してないなぁと思いつつ、私の頭の中は比奈守君のことでいっぱいだった。
水族館でぎこちない別れ方をしたきり彼とは何も話せなかったけど、今日は色んな比奈守君を見られて嬉しかった。これから学校でも仲良くやっていきたいな。生徒と先生として――。
永田先生の車は大人っぽくてオシャレな店の駐車場に停車した。テレビでも何度か紹介されたことがあるとかで地元ではかなり有名な店らしいが、私は今まで全く知らなかった。
内装は派手すぎず地味すぎず落ち着く感じで、薄暗い空間が居心地の良さを強めていた。しっとりした雰囲気作りにもってこいというべきか、まさにカップル向きな店だけど、食事メニューはどれもおいしそうだし、今度純菜や琉生と一緒に来たいと真っ先に思った。
「素敵なお店ですね。よく来られるんですか?」
「ううん。実は初めて」
「そうなんですか?」
意外。永田先生はこういう場所に来慣れてそうだから。
私がひそかに驚いていることに気付かず、永田先生は意味深な笑みでグラスの中の炭酸水を口にした。
「いい雰囲気の店でしょ。いつか大城先生と来たいと思ってたんだ」
「そうなんですか?連れてきて下さって嬉しいです。ありがとうございます」
「喜んでもらえてこっちも嬉しいよ」
永田先生の言葉にドキッとしつつも、私は笑ってごまかした。別に、深い意味は無いよね?気の合う年下教師への親切心から出た言葉だよね?
食事が運ばれてしばらくすると、永田先生は深刻な面持ちで口を開いた。
「レクリエーション中、生徒が僕を呼び出したのは、問題が起きたとかそういうことじゃなかったんだよ。告白するためだった」
「告白、ですか?」
「最近は女子に距離置いて接するようにしてたから、もうそういうことはないと思ってたんだけど……。まいったな……。もちろん告白は断ったけど、その子に泣かれてしまって……。僕は教師に向いてないのかもしれない。久しぶりに仕事で落ち込んだよ」
「そんな……。落ち込む気持ちは分かりますが、永田先生は何も悪くないですよ…!」