「恋って、認めて。先生」
今日は文化祭だし、他校の学生や保護者の方もみえる。きっと変なことは起こらない。あれこれ気にせず私も楽しもう!
C組の占いカフェは人気があり混んでいたけど、永田先生と向かった時は運良くすんなり席に案内してもらうことが出来た。
この占いカフェは、ウエイターやメイドの格好をした生徒が注文の際にお客さんの血液型と星座を尋ね、それに応じた占い結果をメッセージカードに書いてお茶やお菓子と共に提供するといったものだった。
ひととおり注文を終えた永田先生と私は、窓際のカウンター席に並んで座る。
「大城先生、牡牛座なんだ。ってことは、厳密に言えば4月の始業式の時点では24歳だったんだね」
「そうですね。でも、新学期迎えてすぐ誕生日が来ますから、自分の中では新年度イコール25歳っていう気分でした」
4月20日。私の誕生日。そういえば、比奈守君とはお互いの誕生日をお祝いする前に別れてしまったので、私は彼の誕生日を知らない。今さらだけど考えてしまう。恋人として彼の誕生日を一緒に祝いたかった、と。
そんな想いを隠すように、私は隣の永田先生を見た。
「永田先生はさそり座のB型なんですね」
「うん。よくA型っぽいって言われるんだけど、大城先生と同じ血液型だ」
「ええ、B型ですもんね。親近感覚えます。3年間同じ職場で働いてるのに、意外とこういうことって知らないものですね」
「そうだな」
比奈守君のことを思い出し切なくなる心を、永田先生との会話でごまかしている。
ふと出入口を見ると、比奈守君と河田さんがカフェの中へ入ってきた。心臓が激しく鼓動する。あの二人、まだ一緒にいたんだ……。
比奈守君は、奥の席にいる私に気付いたみたいだけど、無関心を表現するみたいにさっと目をそらし、河田さんと別の席に着いた。
和やかだった気持ちはどんどん暗い方に沈んでいく。まるでそれを後押しするかのようにアクシデントが起きたのは、その後すぐだった。
「あつ……!」
永田先生と一緒に注文の品を待っていた私の背中に、何の前触れもなく熱湯のようなものがかかった。
突然のことに私は思わず声を上げ、勢い良く立ち上がってしまう。
「すみません、先生……!手が滑って……」
私の後ろにいたメイド姿の女子生徒が、両手でおぼんを抱きしめながらしおらしく謝ってきたのを見て、私の背中にかかったのは彼女が持ってきた淹れたての紅茶だったのだと気付く。床には割れたカップの破片と、そこから湯気を立てる紅茶が広がっている。
占いカフェとして楽しくにぎわっていた室内の雰囲気はがらりと変わり、客として来ていた生徒達は次第にざわついた。
「アイツ、わざとじゃね?大城先生のこと嫌ってたし……」
「いくら何でも、あれはやりすぎ。引くわー」
客席からそんな声がしたけど、謝る生徒を前に責めることなんて出来なかった。
「私なら大丈夫。ここは片付けておくから、あなたは自分の仕事に戻って?」
「ありがとうございます。失礼します…!」
そそくさと立ち去るメイド女子の行く手を、一人の人が阻んだ。