「恋って、認めて。先生」
永田先生のことを好きだから私に嫉妬している、そんな単純な話じゃない。私にその気はなくても、彼女達女子生徒から見たら、私は「男に媚びるだけの能無し教師」なんだ……。
そのことがショックな反面、妙に納得してしまう。教師としても人間としても、私は未熟だ……。
水を打ったように静まる室内で、落ち着いた声音で口を開いたのは比奈守君だった。
「大城先生が男に媚びてる?本当にそう?」
女子生徒達は互いに目線を合わせ、比奈守君の言葉に注目した。私もそれに耳を傾ける。
比奈守君はニヒルな笑みを浮かべ、日頃の私の行いを淡々と述べた。
「他のクラスの人は知らないと思うけど、大城先生ってそんな器用なタイプじゃないよ。小テストの出題で誤植あるし、採点ミスもけっこうあるし、朗読しろって自分でページ指定しておきながらボーッとしてそれ以上読ませたり普通にするし」
「ああ、たしかに」「俺らのクラスでもそういうのあったな」……所々から生徒達のそんな反応がある。恥ずかしいような悲しいような……。比奈守君、私の授業姿をよく観察してるなぁ。
「本当に男オトすことしか考えてないような人なら、今頃とっくに永田先生以外の教師とも仲良くしたり付き合ったりしてるでしょ。この学校、男の教師多いし。でも、大城先生は全然そんな感じじゃないよね。それに、本当に二人が付き合ってるとしたら、ウワサになるの避けるために学校ではあえて話さないようにすると思うよ。永田先生、女子に人気あるからそういうの注目されるだろうし」
比奈守君は私と永田先生を目の動きだけで示す。
「そうだよね」「大城先生とは友達って、永田先生も言ってたしね〜」と、女子生徒の一部もうなずいている。
私が本当のことを言ってもダメだったけど、比奈守君の言葉は信用されている。永田先生を好きな女子生徒達にとって、同じ高校生である比奈守君の言葉だからこそ、胸に響いたのかもしれない。
比奈守君のおかげで、追いつめられていた私の心はすごく楽になった。恋人としてはダメだったけど、教師としてはまだ彼に嫌われていないのだと思え、それだけのことがすごく励みになった。
「比奈守君、ありがとう」
比奈守君のおかげで強い気持ちを取り戻した私は彼に笑顔を向け、こちらに敵意を見せていた女子生徒達に言った。
「私はまだまだ未熟な教師です。何やっても失敗ばかりします。ウワサの件も、私の至らなさが招いたことだと認めています。それに、あなた達の言う通りです。私には自慢できることなんて何もない。未来があって若くて可愛いあなた達が、本当にうらやましい」
私に紅茶をかけた女子生徒は、困ったように私を見る。
「恋人はいないけど、私には好きな人がいるんです。皆が永田先生を好きなように、私もその人のことが大好きです。完全に私の片想いだけど……。だから、嫉妬する気持ちも、こうやってライバルを叩きたくなる気持ちも、好きで好きで苦しいって想いも、すごく分かるよ。永田先生絡みのウワサや日頃の行いで、皆のこと傷付けましたよね。本当にごめんなさい」