「恋って、認めて。先生」
最後に深呼吸をし頭を下げると、
「夕、やぁっと見つけた!連絡取れないし探したぜ」
他校の男子生徒がへらっとした顔で室内に顔を出した。北高の制服を着ている。比奈守君の友達だろうか。
「あれ?何、この空気」
ただごとではない雰囲気を察し、北高の彼は苦笑する。
「何でもない」
比奈守君はため息混じりにつぶやくと、北高の彼と河田さんを連れてここから出て行った。
「大城先生も早く着替えたら?君も!」
永田先生は、メイド女子と私を交互に見てそう促した。
着替えと手当のためとはいえ、私を嫌っている女子生徒……メイド女子と保健室で二人きりになり内心とても気まずい。でも、彼女の一言でそれは消えた。
「大城先生ってもっと嫌な人かと思ってました。さっきは本当にすみません……」
「気にしなくていいよ。あなたこそ大丈夫?」
「はい……。ただの水だったから。衣装も乾かせばまた着れるので」
照れくさそうに笑う彼女を見て、私はまたひとつ教師としての喜びを覚え、少しだけ成長できたような気がした。もちろんこれは私だけの力じゃない。彼がいてくれたからーー。
最終的に彼女は、比奈守君に水をかけられたことも大事にしないでくれた。
薄い上着を羽織っていたおかげか、幸い私は軽いヤケドで済んだ。紅茶のかかった部分が多少赤く腫れたけど、その後来てくれた保健室の先生によると、数日したらきれいに治るそうだ。
それまでひんぱんに感じていた女子生徒の敵意に満ちた視線は、翌日になるとウソのように消えていた。永田先生と一緒に歩いていても、もう何も言われないし睨まれたりもしない。
昼食がてら2年D組のたこ焼きを買い永田先生と一緒に食べていると、永田先生は苦笑して髪を片手で乱した。
「いつもそう。彼には肝心なとこでいいとこ取りされるな」
「何のことです?」
「昨日の比奈守君だよ。あれ、まだ君に未練あるんじゃない?」
「それはないと思いますよ。情けない担任教師を見かねて仕方なく助けた、そんなところだと思います」
「大城先生、彼のひねくれ加減に感化されてるな。新任の頃はもっと丸くて素直だったのに」
「このくらいでないと教師なんて務まりませんよ」
「言うようになったね〜」
「冗談ですよ。言ってみただけです」
永田先生にそんな軽口が叩けるくらい、今の気持ちは爽やかさで満ちている。あんな形とはいえ、比奈守君への恋心を口に出して認めたおかげだ。
三日間に渡り行われた文化祭が最終日を迎えたこの日。私はとある人物に話しかけられた。