「恋って、認めて。先生」

 文化祭中、生徒達の私物や出し物の備品置き場として使われている南舎。

 教師は交代で南舎の見回りをすることになっているので、永田先生と別れひとり静かな廊下を歩いていると、後ろから誰かが走ってきた。

「大城先生ですよね?夕の担任の……」
「あなたは……」

 文化祭初日、3年C組の占いカフェに現れた北高の男子生徒。顔を見たのは一瞬だけど、その顔は鮮明に覚えている。

「比奈守君の知り合いの……」
「はい。大宮樹吹(おおみや・いぶき)です。夕とは小学校の頃から友達で」
「そう。大宮君は比奈守君に招待されて来たんだね。だけど、申し訳ないけどここは他校の生徒は立ち入り禁止なの。他の先生に見つかる前に出た方が……」

 そんな私の言葉を遮って、大宮君は言った。

「すぐ戻りますから、ちょっとだけ話聞いてください…!」

 真剣な大宮君の目に私は気圧され、うなずくしかなかった。

 他の先生ですらあまり見回りにこない特別学習室に大宮君を案内し、私は話を聞くことにした。

「大城先生、夕と付き合ってたんですよね」
「……!!」

 大宮君が人目のない場所で私を呼び止めた理由が、やっと分かった。

「大宮君、その話は…!」
「大丈夫。他の人に言う気ないですから」
「ありがとう。……あなたの話って何かな?」
「なんて言ったらいいか分からないし、こんなのよけいな口出しだと思うけど……」

 迷うように視線をさまよわせた後、大宮君は思い切ったように言った。

「夕への気持ち、本当にもう冷めたんですか?」
「……聞いてると思うけど、私達は3ヶ月も前に別れたんだよ」
「別れてすぐ嫌いになんて、普通はなれませんよね」
「そうだね。でも、彼の方はもう私に特別な気持ちはないみたいだから」

 女子生徒からかばってもらって嬉しかったけど、中庭や昇降口で言われた言葉はなかったことにならない。彼はもう、私のことを担任の先生としか見てない。

「でも、それはそれ。卒業まで、担任として比奈守君の受験の支えになりたいと思ってるよ」
「……夕、大城先生と出会っていい風に変わりそうだったのに。好きな人からもそんな風に見られるなんて、夕がかわいそすぎます」

 悔しげに顔を歪め、大宮君は言った。

「俺が担任の先生好きになったって話した時、夕はすごく親身に話聞いてくれた。前だったら適当な返事しかしなかったのに……。結局俺は他の子と付き合うことにしたけど、夕の先生への気持ちはずっと変わらなかったんです」

 水族館で比奈守が言っていた「女の先生を好きな他校の友達」……大宮君のことだったんだ!
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