「恋って、認めて。先生」

 ドキドキし、頬がじんわり熱くなった。比奈守君関連の話に、恥ずかしいくらい反応してしまう。

 そんな私にじれったそうな目を向け、大宮君は言った。

「先生ももう分かってると思うけど、アイツ自己表現ヘタなんです。何してても感情が読めないっていうか、子供の時から子供らしくなかったというか、怒ってても悲しくても嬉しくても無言なヤツで。それで担任の先生とか大人からは生意気だーってけむたがられたりして、授業中わざと難しい問題とか当てられることもよくあって……。まあ、夕は頭良かったから難なく解いてましたけど」

 昔の担任とそんなことが……。名前を呼び間違われただけじゃなかったんだ……。大宮君が話す比奈守君の過去を想像し、自分のことのように悲しい気持ちになる。

「親にバレないよう陰険な嫌がらせ発言する先生もいたんですよ。そういう教師は他の生徒からも避けられてましたけど、夕はそういうのまともに受け止める方だったから年々ひねくれていって。でも、大城先生と付き合ってた時は柔らかいというか、優しい感じになってました。昔の……。無表情だけど素直だった頃の夕に戻ったみたいで、俺、すごい嬉しかったんです」

 比奈守君がひねくれ気味なのは、昔両親や親戚との間にあったことだけが原因じゃなかったんだ。

「私、比奈守君にはずっと教師っぽくないって言われてたんだけど……」
「それ、アイツなりの褒め言葉ですよ」
「褒め言葉……?」
「そういうやつなんですよ、アイツ」

 困ったように笑い、大宮君は言った。

「先生との付き合いは秘密だって言って最初は何も話してくれなかったけど、あんなに浮かれてる夕見たことないから、粘って訊いたらやっと教えてくれて」
「そうなの?」
「アイツ、塾辞めたと思ったらまた入って、かと思えば続けて休んだりして、さすがに変だなーと思って七海と一緒に夕を問い詰めたら、やっぱり先生と微妙な感じになってるって聞いて……」
「そうだったの……。ところで、ナナミさんって?」
「河田七海ですよ。今俺、七海と付き合ってるんです」

 河田七海(かわだ・ななみ)。そうだ、河田さんもそういう名前だった!

「河田さんは比奈守君と付き合ってるんじゃ……」
「違いますよ。あの二人はただの幼なじみです」

 大宮君は意味ありげにニヤッとした。

「作戦大成功ですかね?」
「作戦って……?」
「七海が夕を好きなフリして大城先生をモヤモヤさせる作戦ですよ。他にないでしょ?」
「そんな……!!でも、私聞いたんだよ?河田さんのファースキスの……」

 そこまで言ってハッとし、私は口をつぐむ。これは禁句だ!河田さんのファースキスの相手が比奈守君だなんて……!
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