「恋って、認めて。先生」

「大丈夫ですよ、そのことなら七海から聞いてますから」

 くしゃりと笑い、大宮君はあっけらかんと言った。

「5歳の時の話でしょ?夕と七海がキスしたのって」
「ご、5歳!?」
「七海の親がキスしてたとかで、七海も親のマネしたいってだだこねて、たまたまそばにいた夕が被害にあった……。そんな感じらしいですよ」

 そんな風には見えなかった。河田さんと比奈守君の間には特別な何かがある、そう思えてならない。

「夕が七海とキスしてたって知って、嫌な気持ちになりましたか?」
「そ、それはっ……」
「七海、うまくやったみたいですね。それも作戦のうちなんですよ。大城先生にわざと聞こえるように昔のキスの話するっていうの」
「比奈守君はそのこと知ってるの?」
「夕は、作戦のこと何にも知りませんよ。言ったらアイツ絶対嫌な顔するから作戦の意味なくなると思って。先生もこのこと夕には秘密にしといてくださいね。あ、ちなみに、文化祭の間、七海がずっとアイツのそばにいるのも、先生を動揺させるための作戦です」

 そんな……。河田さんと一緒にいる比奈守君にヤキモチを妬いたり不安になったりモヤモヤしたり。大宮君と河田さんの作戦に、私はまんまとハマってしまったわけだ。

 嬉しいような、騙されたような、複雑な気分で脱力する私を満足げに見て、大宮君は語る。

「アイツ、パッと見クールだし顔もいいから昔から女子受けは良かったけど、誰と付き合っても長続きしたことないんですよね。みんなうわべの雰囲気に惹かれてやってくるから、地の夕を見るとガッカリするみたいで。それがよけい夕のひねくれに拍車をかけたのかも」

 色んな出来事を受け止めて、今の比奈守君になったんだな。

「色々誤解されやすいヤツだし、これからもそういうのは変わらないかもしれないけど、大城先生にだけは本当の夕を見てほしいんです」
「大宮君……」
「別れは二人で決めたことなのに、口出してすいません」
「……ううん。そういう話、聞けて良かったよ」
「夕は俺にとって大事な友達だから、大城先生にまでアイツのこと誤解されたままなの嫌だったんです。じゃあ、そろそろ行きますね。七海のこと待たせてますから」

 はにかみ、大宮君は来た道を戻っていった。彼が立ち去った後も、私はしばらくそこでぼんやりしていた。
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