「恋って、認めて。先生」
私達は、別れる必要なんてなかったーー?
琉生と純菜がウチの両親に口添えしてくれたおかげでお見合いする必要がなくなった今、私は誰と付き合ってもいい。相手が年下の教え子だろうと、学校関係者にさえ知られなければ問題ない。
ううん。ダメだ。こんなのは私側の都合。比奈守君には何の関係もない。
そもそも、比奈守君はもう私のことなど好きじゃない。大宮君はああ言っていたけど、あれはヨリを戻せという意味の話ではないだろう。
いまだに比奈守君の言動には一喜一憂してしまうけど、私達はもう終わったんだ……。悲しいけど……。
気持ちを落ち着けた後、文化祭を楽しむ生徒達の間をすり抜け、私は一人職員室に向かった。生徒の個人情報が書いてある書類を見るために。
もう関係ないけど、今どうしても、比奈守君の誕生日が知りたかった。
文化祭中なので、職員室には幸い誰もいない。なんとなく後ろめたい気がした私は、一度周囲を見回し人がいないのを改めて確認した後、比奈守君の誕生日欄を見た。
「ウソ……!!」
比奈守夕。4月20日生まれ。AB型。
「私と同じ誕生日……!?」
あんなにそばにいたのに、全く知らなかった。
思わぬ彼との共通項に、ひとり勝手に胸を躍らせてしまう。
25年間生きてきて、同じ誕生日の人に出会ったことは今までに5回ある。最初こそそんな偶然に驚いたりもしたけど、それが何度もあると「へえ、けっこうかぶるものなんだね〜」と楽しみつつ、最初のような感動はしなくなっていた。
だけど、比奈守君に関しては全く別次元の話。驚きや感動は大きかった。
あまりよく知らないうちから彼に強く惹かれたのは、生まれた瞬間から定められた運命のように思えてならない。
別れたことなど一時的に忘れ、比奈守君の個人情報を手に感極まっていると、職員室の扉が控えめな音でノックされた。
「は、はいっ!」
見ていた書類をあわてて元の場所に戻し、出入口の扉に向かう。
「すみません。永田と申しますが……」
「どうぞお入り下さい」
訪ねてきたのは、ウチのお母さんと同じかそれより少し年上と思われる女性だった。美しくも優しそうな顔立ちで、スーツを綺麗に着こなしている。凛々しく老いを感じさせないかっこいい彼女の雰囲気に、私はしばし見惚れてしまった。
こうして一人でお客様の対応をするのは初めてだったので、失礼のないよう、私は出来るだけ丁寧に接した。
「そういえばもう文化祭の時期ですか……。こんな時にお邪魔してごめんなさいね。こちら、皆さんで召し上がって下さい」
気さくそうな笑みを見せる彼女の手には、学校への差し入れらしき菓子折りが下げられている。丁重にそれをお預かりし、私は尋ねた。
「ありがとうございます。あの、失礼ですがもしかして永田先生のお母様でいらっしゃいますか……?」
「はい。永斗がいつもお世話になっております」