「恋って、認めて。先生」

 呆れたようにため息をつく永田先生を見て、私は考えていた。

 新年度になってすぐの頃、実家のおじいさまがお倒れになったと言い、永田先生は遅れて学校に来たことがあった。告白された翌日のことだったからよく覚えている。

 合コンの帰りに私をタクシーで送ってくれた時、永田先生は実家暮らしだと言いタクシー代を払ってくれたけど、本当は私と同じ一人暮らし。私に気を遣わせないためにそんなウソをついたんだ。

「なんか、そのことが無意識のうちに引っかかってたんですけど、今日やっとスッキリしました」
「何の話?」
「何でもないです。でも、ありがとうございました」
「理由も分からず礼言われるのもな〜」

 苦笑する永田先生に、私はそれ以上何も言わなかった。ただ、あの時私を思いやってくれた永田先生の気持ちに、心から感謝した。

 今日私が知ったのはそのことだけではない。

「お母様、この学校で教師をされていたんですね」
「うん。結婚する前の話だけどね」
「はい。帰り際に教えて下さったんですけど、お母様の旦那さん…永田先生のお父様はこの学校の教え子だったと聞きました」
「なっ……!母さん、そんなことまで話したの?」

 両手で額を押さえ前のめりになる。こんなにうろたえた永田先生は初めてだった。それほど、永田先生にとってご両親のなれそめは隠しておきたい事らしい。

「あーもう!なんでよりによって大城先生にそんな話するかなぁ……」
「いいじゃないですか!ご両親の出会い、素敵だと思います!永田先生のお父様は、その後現代文の教師になられて今も他校でお勤めしていると聞き、すっごく感動しました!」

 永田先生のお母様は、かつてこの学校で教え子と恋をし、それが実ってお二人は結婚し、永田先生を授かった。

 私の恋は終わってしまったけど、それでも、女教師と教え子の恋愛がたしかにこの学校で存在していた、そのことだけで、言いようのないくらい励まされた。

「大丈夫です。言いふらしたりしませんから!」
「いや、それは別にいいんだ。知ってる人は知ってるから。二人の交際発覚したのが父さんの卒業後だったから問題にはならなかったものの、昔はけっこう学校関係者の間で話題になったみたいだし」
「え?そうなんですか……」

 なら、永田先生はどうしてそんなに、私に知られたことを嫌そうにしているんだろう?

 永田先生はうっすら頬を赤くし、バツが悪そうに言った。

「ウチの親のこと、大城先生にだけは言いたくなかったの!だって、悔しいだろ?そんな話したら、比奈守君との仲後押しするだけに決まってるし!」
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