「恋って、認めて。先生」
思い付く限りの言葉で、私は永田先生を励ました。
「理由は何であれ、生徒に泣かれたらショックですよ……。永田先生は間違ってないと思います。生徒のためを思って線引きが出来るんですから」
同じ教職についているからか、永田先生の悩みは他人事に思えなかった。
永田先生は小さく笑い、つぶやく。
「僕にも特別な人がいればいいのかもしれないね」
「……いっそのこと、ウソでもいいので、永田先生には彼女がいるってことにしたらどうですか?」
思い付くまま、私は提案した。
「生徒といい距離感を作れるかもしれませんよ」
「……そうだね」
永田先生はうなずき考え込んだものの、最終的には首を横に振った。
「そうしたら楽かもしれない。でも、そういうウソはいずれバレると思うし、生徒の信頼を裏切るような行為だから」
「ですよね。軽率なことを言ってすみませんでした」
「ううん、全然。むしろ、一生懸命一緒になって考えてくれて嬉しかった。大城先生に話して良かった」
「そんな……。お役に立てたのかどうか……」
「充分だよ。元気出たから」
永田先生は意味ありげに笑う。
「大城先生が僕の彼女だったら良かったのにな」
「え!?」
「びっくりした?」
「しますよ!」
よく知るはずの永田先生が、今まで知らなかった表情でこっちを見てくる。
今のは冗談だ。分かっているのに、嫌な感じに体が熱くなった。私は必死に作り笑いを浮かべ、
「永田先生みたいな人に彼女がいないことにもビックリですよね」
「いたけど、別れたよ。1年くらい前に」
「そうだったんですか…?」
「嫌いになったわけじゃないんだけど、お互いに生活スタイルが合わなくて、そのまま……。まあ、よくある話だな」
「なんか、すいません」
生活スタイルが合わなくて別れた、か……。私も、そうだったな。なんて、過去に浸ってる場合じゃない!私、無神経なこと言ったよね?どうしよう。
内心ヒヤヒヤしていると、永田先生は和やかに笑った。
「謝ることないって。大城先生とこうやって過ごせるの楽しいから。こんなに楽しかったの久しぶりだ」
お世辞やごまかしじゃなく、本心からそう言ってくれているのが分かり、ちょっと安心した。
……というのも束の間。永田先生はドッキリを越えるドッキリセリフをサラッと口にした。
「大城先生と、これからもっと色んな話がしたい。同僚じゃなく、特別な相手として」
「え……?」
それって、まさか……。告白??いや、あり得ないよね。ううん。あり得ることか。他人の気持ちなんて口にされなきゃ分かりっこないし……。