「恋って、認めて。先生」
「永田先生……」
「……本当は、もう分かってる。ウチの親のことなんて関係なく、君達が惹かれ合うのは止められないってこと」
わざと明るい口調をしているのが分かる。人のこと言えないけど、普段大人っぽくスマートな永田先生も、こういう時に本音を隠すのが下手だ。
「占いカフェでの君の言葉、はっきり言って打ちのめされたよ。『恋人はいないけど片想いしてる』って。他の男はもちろん、毎日接する僕の存在すら眼中にないんだなって思い知ったよ。同時に、あの時の君を心底かっこいいと思った。理不尽な攻撃をされた上、一方的に責められてるのに、女子生徒達に向かって本音で向き合えるなんて……。やっぱり君は強い人だね」
「あれは、勢いというか、なんと言うか……。比奈守君がかばってくれたから変に強気になれたとこがあって」
私一人ではこわくて、絶対あんなことできなかった。
「片想いじゃないと思うよ。君の恋は」
「そうでしょうか?」
「別れたとたん、君の恋愛センサーは鈍くなったんじゃない?」
「『鈍感』はその通りかもしれませんが、恋愛センサーって何ですか?」
「恋愛中に相手のシグナルを察知する能力みたいなものだよ。普段使われる『鈍感』って単語とは似て非なるものなんだ。大城先生は、彼と別れた瞬間その力が欠落したみたいだな。まあ、傷心のあまりそうなるのは仕方ないけど」
永田先生は諭すように言う。
「僕は嫌ほど感じるけどね。比奈守君からの敵意。そりゃもう、毎日のようにビシビシと」
「そんなはずは……。彼は、中庭で偶然会った時も私のことなど何とも思ってないって言い切りましたし、私達と昇降口で会った時だって、こっちには目もくれませんでした……」
言った瞬間、大宮君の言葉を思い出した。
『大城先生にまで誤解されるなんて、夕がかわいそすぎる!』
永田先生は軽く私の肩を叩き、
「ウワサをすれば、だね」
「え?」
「足音が聞こえる。ほら」
それは、生徒の上履き独特の音。走っているらしく、永田先生と二人きりの職員室にそれはやけに大きく響いた。
「真相は本人に聞いてみるのが一番だね。僕の勘が外れてないとも限らないから」
永田先生の言う恋愛センサー。それは私にもあって、比奈守君と付き合っていた頃はフル稼動していたものの、別れた瞬間衰えてしまったらしい。本当に、私にそんなものがあったのだろうか?
「失礼します」
ノックもせず中に入ってきたのは、比奈守君だった。彼のこめかみにはうっすら汗が流れている。
「じゃあ、僕は行くよ。他の人に怪しまれないように節度は守ってね」
「だったら永田先生もここにいて下さい。それならいいでしょ?」
退室しようとした永田先生を引き止め、比奈守君は私の方にまっすぐ進んでくる。