「恋って、認めて。先生」
「気にならないわけ、ないじゃないですか」
比奈守君はこわばった面持ちで、永田先生と私を見た。
「二人は大人で、同じ職場で共通点もたくさんあって……!付き合う前も、付き合ってる時も、別れた後も、いつだって二人が一緒にいるところが目に入る!毎日俺がどんな気持ちで二人を見てたか知らないですよね?水族館でのレクリエーションの時も、体育祭やこの文化祭でも、普段登下校する時までも、同じ職場ってだけで、二人は当たり前のように笑いながら話してて、そばにいることが許される。俺が禁止されてることを、永田先生は楽々やってのける。それ見るたび、胸が苦しかった……」
そこまで深く好きでいてくれたなんて……。私の方が比奈守君を想っているのだとばかり思ってた。
「俺は出会えただけで満足だったのに、先生は俺の将来とかそんなことまで持ち出して別れるって言って聞かなくて……。ただそばにいるだけの俺じゃダメなんでしょ?本当はずっと、別れの理由に納得できなかった。でも、納得するしかない。そうやってやっと気持ち整理したとこなのに、こうやって俺の気持ちなんて訊いてこないで下さいよ……!一度突き放したなら、最後までとことん嫌い通して下さいよ……」
比奈守君は片手で涙をぬぐい、静かに肩を震わせている。そっと彼の背中を抱きしめたくなったけど、次の言葉を聞いて、私は一歩も動けなくなってしまった。
「ハンパなことされるのが一番つらい。だからこっちも忘れたふりして振る舞ってるのに、これじゃあ台無しですよ……」
「うん、ホント台無しだね。かっこ悪!」
永田先生が笑いをこらえた声で言う。比奈守君に共感や同情を示す気など全くない。そんな気持ちがありありと出ていた。
「ぐちぐちつまんないこと言ってないで、好きならダメ元でぶつかれば?少なくとも、新年度始まった頃の君はそうだっただろ。僕に、大城先生になれなれしく触るなって噛み付いてきた。あの勢いはどこ行ったのー?」
「……まだ覚えてたんですか?やっぱりねちっこいですね、永田先生って」
「何とでも言ってよ。君には色々思うことが山ほどあってね。こうなったらもうトコトン言わせてもらうよ」
比奈守君の涙でしんみりした空気は一変、永田先生はおちょくるようにポンポンと比奈守君に言葉を投げた。
「ねちっこいのはお互い様だろ?何あれ。大城先生と歩いてる僕を見るたびライバル心むき出しの目で見てきて、本当にそれで別れを受け入れたつもり?無理があるでしょー。っていうか、今日のこの場合、君から好きって言っちゃったわけだし、大城先生が君の気持ちを尋ねるのは自然な流れだと思うよ。そこ責められても、は?ってなるな〜こっちは」