「恋って、認めて。先生」

「あ、あの、永田先生?」
「大城先生、これは男と男の勝負だから君は黙って見てて?」
「は、はい……」

 この数ヶ月の間に、永田先生は激しく変わった気がする。

 比奈守君は時々顔を引きつらせながらも、永田先生の一字一句を漏らさず聞いていた。

「だいたい君さ、いくら好きとはいえプールで教師といちゃつくとか、ありえないだろ!非常識にも程がある!若さと無謀は表裏一体だ。見せられた方の身にもなれよ?」
「よくそんなに、過ぎたことまで色々出てきますね……。イラつき過ぎでしょ」
「教師は何かとストレスたまる仕事なんだよ。生徒だけじゃなく保護者の顔色もうかがわなきゃならないしなぁ。ああもう、真面目にしてんのアホらし!やってらんねーわ」
「あの、話だんだんズレてますけど……」

 最初は真面目だった比奈守君も、途中から呆れてため息をついている。

「言われっぱなしも嫌なんでこっちも言わせてもらいますけど、俺の気持ち察してたならさっさと諦めて大城先生から引けばいいのに、何で諦めないんですか?永田先生なら他にもたくさん相手いるでしょ?」
「そういう君こそ、大城先生にはきっぱりフラれたんだからいい加減他に目を向けたら?さっき1年の生徒が話してたけど、他校にも君のファンがいるそうじゃない」

 比奈守君に、他校のファン!?そうなの?そんな……。

「そんなの知りませんよ。好きになった人が振り向いてくれなきゃ意味ないって今は思ってるんで」
「へえ、いいこと言うな。それは僕も同じだよ。自分の好きになった人にしか興味ないから」
「だからって親近感なんて微塵も湧きませんけどね」
「ああそう、君はホント可愛さのカケラもないな」
「永田先生に可愛いって思われてもちょっと……。それに、他人の評価は気にしないんで」

 この二人、実は似た者同士なんじゃ……。

 言ってることはもっともらしいけど、二人は幼い子供みたい。言葉の内容はトゲトゲしいのに、言い合いを通して仲良くしてる、そんな風に私には見えた。

「ふふっ」

 つい、笑みがこぼれてしまう。

「なんか、面白いね。永田先生と比奈守君って」

 笑う私に、比奈守君はじとっとした目を向け、

「これ、コントじゃないですよ?」
「まあ、いいじゃない。大城先生の笑顔は癒しだよ。職員室に一人は必要な存在だな」
「よくそういうこと恥ずかしげもなく言えますね。いい大人が」
「いい大人だから癒しが欲しいの!あと、君が思ってるほど僕ら二十代は大人なんかじゃないよ」

 永田先生は観念したと言いたげに眉を下げる。

「君もそのうち分かると思うよ。僕は子供で未熟で、だから、こんなやり方でしか君と張り合えない」
「……」
「初めて生徒とこんなに話した。久しぶりに楽しかったよ。聞いてくれてありがとな」

 比奈守君の背中を軽くニ、三度叩き、永田先生は職員室を出て行く。

 あとは君達次第だよ。そう、言われた気がした。
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