「恋って、認めて。先生」
職員室に二人きり。遠くの方から文化祭を楽しむ人々の喧騒が聞こえる。
永田先生がいなくなったことで突然静かになり、なんだか照れくさかった。どちらかともなく目が合い、そこから視線をそらせなくなる。
「……私の片想いの相手、言ってもいい?」
「聞きたいです」
「比奈守君だよ」
「……本当ですか?」
比奈守君の目には戸惑いの色が浮かんだ。態度こそ落ち着いているけど、私にそんなことを言われるなんて想像もしていなかったんだろう。
「もう永田先生に傾きはじめてるのかと思ってました。二人、見せつけるみたいにいつも一緒だし」
「それはそうだけど、一緒にいるからってだけでそんなにすぐ気持ちは変わらないよ!」
「別れてから三ヶ月も経ってるのに?」
そっか……。私にとってはたった三ヶ月でも、比奈守君の感覚では長く感じていたんだ。
大人と子供の違い。大人になるほど時間の流れは早くなるけど、子供にとっては1日1日が長い。私も昔はそうだった。
思わぬところで年の差を感じ滅入っていると、比奈守君は言った。
「先生言ったよね。将来の夢を叶えてほしいから俺と別れるって。でも俺、あの時はその言葉全部信じてなかった。半分は別れるための口実だと思ってたから」
「口実…?」
「先生のそばにはすごい人がたくさんいる。琉生さんと永田先生。合コン行ったって聞いた時は、俺に魅力がないからなんだと思ったし」
「あれは違うの!比奈守君がどうとかじゃなく付き合いで仕方なかったの。本当にごめんね!?」
「わかってる!先生はそんな人じゃないって。でも、別れる時は先生の気持ち全部信じてなかったんだと思う。誰よりも先生を好きな自信はあったけど、こんな自分が先生に好かれる自信は全くなかった……」
いつも自信ありげに振る舞っていたけど、比奈守君も本当は、臆病な気持ちを隠して私と接していたんだ。
「別れた後、純菜さんと琉生さんがウチの店に会いに来てくれて、その時、聞いたんです。先生がいかに俺を想ってくれているか。それでも俺はまだ半信半疑だった……」
琉生と純菜が?知らなかったよ。
「でも、先生が占いカフェでああやって言ってるの見て、先生の片想いの相手は俺なんじゃないか、そうであってほしいって、強く願ってしまったんです。もしかしたら俺は、先生の気持ちを曲解していたんじゃないかって。だからって、すぐは動けなかった」
「比奈守君……」
「情けないですよね……。先生と付き合う前は何も考えず気持ち言えたのに、一度彼女になったら、嫌われるのがこんなにこわいなんて」