「恋って、認めて。先生」
比奈守君からそっと離れ、私は言った。
「私には比奈守君が必要だよ」
「それって、教師として?」
「教師としても、女としても、だよ」
女は強い方がかっこいいのかもしれない。当然私も強くなりたいといつも思ってる。だけど、その一方で、弱った時には支えてくれる人がほしい。楽しさや悲しみを分かち合える相手が隣に一人いてほしい。そう願う。
「女はいくつになっても男の人に甘えたいし守られたいものなの。少なくとも私はそうだから。比奈守君に、ずっとそばにいてほしい」
一度は彼の将来を案じ手を離してしまったけれど、もう迷わない。私は彼が好き。これからもずっと。
比奈守君はそっと私に顔を近付け、唇がつくかつかないかの間近な距離でささやいた。
「だったら、恋って認めて?先生」
「うん、認める。私は女として比奈守君のことが大好きだよ」
「その笑顔は反則……」
そっけない口調に反し、比奈守君は照れる。優しくキスをされたのは、そのすぐ後だった。
「大好きだよ、先生」
ーーその後、私達はヨリを戻すことになったけど、新しいルールを設けたことにより、その関係は以前とは少し違うものになった。
そのルールとは『比奈守君が高校を卒業するまでは一線を越えず清き交際をする!』というもの。これは、教師として女として反省するために考えたもの。何があっても最後まできっちり守るつもりだ。
比奈守君のことは好きだけど、彼は高校生なのだから、お互い人に知られて後ろめたいことはしたくない。大切な恋だから。あとはやはり、ウワサのことがある。
全てが私のせいではないだろうけど、比奈守君との交際で私の気が緩んでいた、そのことが女子生徒達の不信感を強めた間接的な理由になっていると思えてならないから。
自分で自分を律するのは難しい。でも、こうしてキツめのルールを設けることで、適度に気が引き締まり、生徒達に対しても比奈守君個人に対してもしっかり向き合える。
変わったのはそれだけではない。
私は、学生の時以来おざなりにしていた自分磨きをするようになった。過度な装飾はしないけど、職業的に適した範囲内で綺麗でいられる努力をした。
それというのも、手軽に安く通えるいいエステを紹介してくれたアミさんやエモのおかげであり、永田先生のお母様に出会った影響でもある。
永田先生のお母様はとても綺麗だった。同じく教え子と恋をした身として、見習いたかった。私もあんな風に歳を重ねたい。
25歳。まだまだ若いじゃないか。自分の人生で今がもっとも若い時。年下を見たらキリがないに決まっている。人との比較はやめて、今の自分を大事にしたいと思った。
そんな心持ちや努力のおかげか、冬もなかばになる頃には綺麗になったと人に言ってもらえることが増えた。努力が認められたようで嬉しかったし、自分でも、雰囲気は前より明るくなった気がする。
何より「もう25歳か。若い子はいいな」と鬱々した気分でいた頃の自分より、今の自分の方が気持ちがいいし大好きだ。