「恋って、認めて。先生」

 純菜は、合コンで出会った遠藤さんと最近よく会っているらしい。

 遠藤さんとは成り行きで何となく会っていたらしいけど、会ううちに共通の趣味や仕事の話で意気投合するようになったそうだ。

 二人が恋人同士になる日は近いだろう、と、琉生は楽しげに予想している。


 そんな琉生も、年明けすぐ彼氏との同棲を決め、長年暮らしていた実家を出た。ピアノを置いても問題ない防音室のある部屋を彼氏と二人で借りたそうだ。

 いつものように私のアパートで夕食を囲んでいると、琉生は言った。

「新しい家、ここから割と近いんだ。近いうちに、飛星と純菜にもアイツのこと紹介するよ」
「おめでとう、琉生。良かったね」
「ありがとな。飛星も、比奈守君が卒業するの楽しみだな」
「うん!」

 比奈守君はT大学の教育学部を受けると決め、今も必死に勉強している。本人はそれを隠しているけど、現代文を苦手としていた彼にとって、T大学への合格は少し難易度が高いと思えた。

 塾通いの日々。私も受験生のクラスを受け持つ身で忙しいので、比奈守君とはプライベートで会えることは少ない。でも、不安な気持ちにはならなかった。

 おそろいのイミテーションシトリンと本物のシトリン。これがあるから、より彼との心のつながりを感じられる。


 早く春が来てほしいような、もう少しこのままでいいような……。不思議な感情をもてあましながら、私は教師として、一人の人間として、1日1日を大切に過ごした。



 ーー3月。3年生の卒業式が行われた。

 比奈守君をはじめ、私の受け持つA組の生徒達はみんな志望校に合格した。

「あっちゃん、今までありがとう!」
「大学行っても遊びに来るからね」

 卒業式後の教室で、生徒達が口々にそう言った。

 卒業はおめでたいことであると同時に、今までの友達と離れなければならない寂しさもある。教壇で生徒達の言葉を受け止めながら、生徒達と一緒に私も涙を流した。

「みんな、卒業おめでとう。1年間皆さんの担任でいられて本当に良かったです。楽しい時間をありがとう。幸せになってね!」
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