「恋って、認めて。先生」
『永田先生だって男でしょ?普通に下心とかあるんじゃないですかね?先生、鈍感そうだし』
反射的に、比奈守君の尖った言葉を思い出した。彼の言いたかったのは、こういうことだったの?
グルグル考える私の顔を、永田先生は心配そうに覗き込む。
「もしかして、気付いてなかった?」
「気付くもなにも、永田先生は職場の方ですし、私自身、恋愛したいなんて全く考えていませんでしたし……」
混乱のあまり本音が出てしまった。大人の女として、こういう時にもっとうまく言葉を返せたら理想的なのだろうけど、悲しいことに経験値がゼロに等しい身なので、どうしたらいいのかサッパリ分からない。かなり失礼なことを言ってしまった気がする。
私の考えとは裏腹に、永田先生はどこかホッとした顔で微笑した。
「大城先生は真面目だな。職場も出会いの場のひとつだと思うけど?」
「はい。そうですよね。他の方がそう考えるのはよく分かります」
でも、私は……。
「仕事さえあれば、他に求めるものはありません」
「強いな、大城先生は」
「強いんですかね?」
はっきりウンと言えない自分が歯がゆかった。『弱いから恋愛を遠ざけている』のだとも言える。そんな気がして。
「立派だけどもったいないな。恋に興味がないなんて」
うつむく私に視線をやり、永田先生は言った。
「僕も、職場は仕事をするための場所だと思ってたよ。大城先生に出会う前は……」
「永田先生……」
「初めて大城先生に出会った時に、この人だと思った」
さっきまでの軽やかな感じじゃなく、永田先生は真剣だった。
「一生懸命仕事頑張ってて、不器用で、いつも笑顔で……。大城先生がそこにいるとホッとする。3年前からずっと好きだったよ」
「3年前、ですか?でも、あの……。その頃は彼女さんがいたんじゃ…?」
永田先生は気まずそうに唇をかむ。
「そうだね。生活スタイルが合わなかったのも本当だけど、彼女とは学生時代からの関係で、社会人になってからは惰性で付き合ってた部分が大きくて……。そんな時大城先生に出会って、惹かれる気持ちを抑えられなくなったんだ。それで結局……」
そんな……。永田先生が学生時代から付き合っていた彼女さんを振ったのは私が現れたせい?
直接何かをしたわけではないけど、私は永田先生の元カノさんに申し訳なく思い、罪悪感で胸が重たくなった。それに、私もかつて、同じような理由で恋人に振られた。とても他人事には思えない。