「恋って、認めて。先生」


 ーーそれから4年後の春。

 南高校普通科での勤務も7年目になる。1年B組の担任をすることになった私は、幼さの残る生徒達の顔を見渡し、教壇で挨拶をする。

「入学おめでとうございます。今日から皆さんの担任をさせていただく大城飛星です。担当教科は現代文、部活では調理部の顧問をしています。分からないことがあれば何でも相談に来てくださいね。1年間よろしくお願いします」

 夕が大学生になった年から、私は調理部の顧問を任されている。特技や学歴を考慮された上でのことだった。

「そしてこちらは、1年間皆さんの副担任をする比奈守先生です。比奈守先生はこの学校の卒業生なので、皆さんの先輩になります」

 私の隣に立つ夕は、堂々とした様子で生徒達に挨拶をした。

「こうして母校で勤めることができて本当に嬉しいです。大学を出たばかりで右も左も分かりませんが、大城先生の良き支えになれるよう頑張ります。担当教科は世界史と日本史になります。1年間よろしくお願いします」

 スーツに身を包みキリッとしている夕を見て、女子生徒達は頬を赤くしざわついた。

「比奈守先生かっこいい!若いし!」
「でも、指輪してるよ?」
「え、ウソ!」

 夕の左手薬指には婚約指輪がはめられている。私の指にも同じものがあった。

 別れの日に分かち合ったシトリンを指輪用に加工してもらい、こうして婚約指輪の飾りにしている。

「そんなぁ、ショック……」
「比奈守先生、結婚してるんですか?」

 生徒達の質問に、夕は微笑し答えた。

「4年交際した女性と、来年結婚する約束をしています」


 来年の4月20日。お互いの誕生日に私達は入籍し、結婚式を挙げる予定だ。

 それまで私達の関係は生徒達には秘密だけど、昔のように隠す必要はないのでおそろいの指輪も堂々としていた。今では外へ食事にも行くし、人前で手もつなぐ。学校側にも交際のことは伝えてある。

 暗黙のルールで、夫婦は同じ職場にいてはいけないという決まりが教師にはある。それが許される学校もあるそうだけど、南高校は違う。

 夕と結婚したら私は他の学校に転任しなければならないので、彼と同じ学校で働けるのはこれが最初で最後になる。


「やっと、飛星と対等になれた気がする」
「私達は元々対等でしょ?」
「そうだけど……」

 生徒達が帰宅した後の教室で、夕と語り合う。

「あれから今までの時間、長かったようであっという間だった。飛星の見てた世界をやっと見られる」
「夕の夢が叶って嬉しいよ。おめでとう」
「ありがとう。早く結婚したいね」
「うん。でも、きっとすぐだよ」

 これからも、こうやって夕と共に生きていける。当たり前の日々が愛おしい。

「夕と出会って、つらいこと苦しいことたくさんあったけど、あの時恋って認めて、本当に良かった」
「俺も、勇気出して気持ち伝えて良かった。飛星のおかげで、コンプレックスだった自分の名前も自分のことも、好きになれたし大切に思えるようになったから」










《完》

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