「恋って、認めて。先生」
離れていったあの人も惰性で私と付き合ってたのかな?そこへ他の女性が現れたから私と別れた……?
男の人って皆そうなの?飽きたら簡単に新しい相手に言い寄ることができる?
「……すみません。急用を思い出したので、もう帰ります」
永田先生の顔を見ずに席を立ち、私はレジに向かった。
「ここは僕が…!それに、もう遅い、送ってくよ…!」
永田先生は私の手から伝票を取りあげようとしたが、私はそれを素早くかわした。
「ごちそうしていただく理由がありません。今日はありがとうございました」
「大城先生……!?」
戸惑う永田先生の様子を視界の隅に入れ、私は店を出た。
車がなくてもなんとか電車で帰れそうな場所だったので、私は最寄駅目指して早歩きをした。そうすることで、体中にまとわりついた不快感を振り払いたかった。
「最低だよ……」
最低って、何に対して?
自分?
過去?
永田先生?
永田先生のことをすごく尊敬していたはずなのに、今は微妙な気持ちになっている。
「まさか、あんな人だったなんて……」
生徒のことで相談があるなんて建前で、それっぽい空気を作って告白してくるつもりだったんだ、はじめから。
「そうだと知ってたら、絶対ご飯なんか行かなかったのに…!」
永田先生の好意を喜ぶ気持ちが微塵も湧かない。それどころか、告白されたことをキッカケに過去を思い出し頭が真っ白になりそうだった。
「もう、忘れたと思ってたのに……」
別れたあの人のことで、まだ、こんなにも胸が痛かったんだ……。改めて気付き、打ちのめされる。
けっこうな量の料理を食べたのに、こんな気持ちのせいか体は軽く、自分の中身までがスッカスカの空っぽであるような気がしてきた。そのことで、更に落ち込む。
すんなり電車に乗る気分にもなれなくて、私は駅前の公園に立ち寄った。
夜も遅いというのに、外灯のせいか公園の中は明るく、犬の散歩やランニングをしている人が何人か通っていく。
夜風が揺らす木々の音に耳をかたむけつつブランコに座り、ただぼんやりそんな風景を眺めていると、見覚えのある姿が公園を横切ろうとしていた。
南高の制服。あれは比奈守君……!?でも、どうして?
暗い気分がすうっと消えていくのを感じつつ、どうしようか迷った。教師になってから今まで、プライベートの時間に外で生徒に会ったことは一度もない。