「恋って、認めて。先生」
ブランコから立ち上がり右往左往していると、向こうも気付いたのか、様子をうかがうようにこちらへ近づいてきた。
「先生、何してるんですか?動きが不審者ですよ」
「ひっ、比奈守君こそっ!」
「駅前の塾に通ってるんです。ここ抜けると近道になるんで」
「そうだったんだ。レクリエーションの後なのに塾なんて偉いね」
「一応、受験生ですから」
平然を装い先生ぽく振るまってはみるものの、本当はすごく動揺していた。永田先生とあんなことがあった後に、生徒と、しかも比奈守君と顔を合わせなければならないなんて…!
「先生は何してるんですか?学校、とっくに閉まってますよね」
「散歩だよ」
「女一人でこんな時間に?危ないですよ」
当然のように夜道の心配をしてくれる比奈守君に、胸がキュンとしてしまった。
「大丈夫だよ、先生大人だし」
「無防備ですね、ホント……」
あきれたようにため息をつき、比奈守君は眉をひそめる。
「ていうか、さっき逃げようとしてませんでした?」
「そんなことないよ~」
「顔ひきつってますよ。バレバレ」
「はい……」
比奈守君は隣のブランコに腰をおろし、ゆっくりこぎ始めた。
「何かあったんですか?」
「どうして?」
「そういう顔してたから」
「…………」
見抜かれてる……。比奈守君、相変わらず鋭いな。
「先生、分かりやすいから」
「そうやって大人をからかわないの!」
「これでも心配してるんですけど?」
比奈守君と目が合い、不覚にもまたドキッとしてしまった。からかうみたいな口調なのに、比奈守君の目は驚くほど真剣で……。心から心配してくれているのが伝わってきた。
だけど、立場上、そこでありのままを話すわけにもいかない。私はごまかした。
「大人には色々あるんだよ」
わざと背伸びしてそんなことを言ってみたけど、比奈守君には効果ナシだった。
「先生、なんか無理してません?」
「比奈守君は、ほんと鋭いね。先生困るよ~」
笑って明るく言ってみたけど、涙が出そうだった。
昔別れた恋人のこと。
永田先生の告白。
恋愛したくない理由。
そして……。
今まで抑えていた何かが、はち切れそう。それを誰かに受け止めてほしかったのかもしれない。
「大人でも泣きたい時とかあるんでしょ?我慢は毒ですよ」
「比奈守君……」
ブランコをこぎ、比奈守君はそっけなくつぶやく。前なら反応に困ったその冷たさが、今は違って見えた。彼なりの優しさなのかもしれないと思えるほどに。
比奈守君が今、横でブランコをこいでいる。それだけで何だか平気になれた。泣きたかった気持ちはどこかにいってしまう。
「……ありがとう。比奈守君に会えて元気出たよっ!」
笑う私を見て、比奈守君は目をしばたかせた。かと思うと、バッと勢い良く立ち上がりブランコを離れる。
「もう帰るよね?ありがとう」
「先生って、生徒が相手なら誰にでもそういうこと言うの?」