「恋って、認めて。先生」
背中を向けて立っていた比奈守君は、少し悲しげで困った表情でこっちを振り向いた。
「俺、別に何もしてないし、感謝されても……」
「こうやってそばにいてくれたでしょ?それだけでいいの」
穏やかな気持ちだった。本当に。
「生徒にこんなこと話すなんて、教師としてどうかと思うんだけど……。本当は、仕事のこととか他にも色々悩んでたんだ。ここに寄ったのも、まっすぐ帰る気になれなかったから……。
でも、比奈守君が心配してくれて救われた。本当だよ。ありがとう」
なぜだか分からないけど、さっきまでの暗い気持ちがウソのように気持ちは晴れやかだった。比奈守君はそっけないけど優しい。そのことがただただ嬉しかった。
ブランコに座ったままの私の正面に立ち、比奈守君は訊いてきた。
「……もしかして、永田先生と何かありました?」
「どっ、えっ、いや、別に!?」
「そこまでしゃべっといて、今さら隠さなくても。バレてますし」
「バレてるって?」
「さっき、水族館での先生達そんな雰囲気だったんで」
「……!」
水族館で比奈守君と別れた時のことを思い出す。あの時、私のそばには永田先生がいた。
なんと言うべきか、やっぱり比奈守君にはかなわない。この一言につきる。
観念して、私は永田先生から告白されたことを打ち明けることにした。「他の生徒達には内緒にしてほしい」そう、前置きをして。
ひととおり話を聞き終えた比奈守君は、再びブランコに座り、冷静な反応を示した。
「……やっぱり」
「比奈守君、驚かないの?」
「先生の鈍さには驚いてますけどね。だから言ったんですよ」
「だよね……。反論できないのが痛い……」
「……永田先生と付き合うんですか?」
「付き合わないよ」
「イケメンなのに?」
「そういうのは関係ないよ」
あんな話を聞いてしまったら、断るしかない。さすがにこれは比奈守君にも話せないけど、永田先生が元カノさんを振った理由が私だなんて、嫌だった。
そう……。昔付き合ったあの人と永田先生が、どうしてもダブって見えてしまうから。出来ることなら、永田先生の恋愛事情なんて知りたくなかった。
私の事情を知らない比奈守君は、遠い目で言った。
「……付き合ってみなきゃ分からないこともあるんじゃないですか?先生も言ってましたよね、教師は教師とくっつきやすいって」
「それは一般論だよ。別れた時に同じ職場だと気まずいから」
「付き合う前から別れた時のこと考えるんですね」
何を考えているのか分からない淡白な声音に、うっかり傷ついてしまいそうになり私はまた動揺した。
つまらない大人だと思われたかな?そうだよね。若い頃は、後先のことなんて考えず気持ちのまま勢いで付き合えるものだもんね……。
「……俺も、彼女と長く続いたことないんで、そういうの分かります」
ポツリと語られた比奈守君の一部に、激しく心が揺れた。そんな自分に、また、戸惑う。
「そう、比奈守君もそうなんだ……」
「はい。先生の気持ち、分かりますよ。別れたら気まずいですよね」