「恋って、認めて。先生」

 比奈守君は生徒だけど、心の中で勝手に癒されるくらいはいいよね?『恋人になって』ってお願いしてるわけじゃないし……。


 あれこれ考えたり優しい気持ちで満たされているうちに、駅に着いてしまった。

 楽しい時間は一瞬で終わる。そんな現実に切なくなった。

「じゃあ、また明日学校で」

 公園での会話を忘れたみたいに平然と別れの挨拶を口にする比奈守君を見て、私は無意識のうちにこんなことを言ってしまっていた。

「送ってくれてありがとう!比奈守君、ご飯まだだよね?」
「はい。これから家で食べようかと」
「あの……。よかったら、ウチでトマト鍋食べてかない!?お礼にごちそうしたいな~って……」

 ビックリしたように目を見開き、比奈守君は足を止めた。

「でも、友達来てるんですよね……?」
「大丈夫!話せば分かってくれる子達だし、それに……」

 言い出したら止まらない。私は、比奈守君を引きとめる口実を一生懸命考えた。

「さっき永田先生とご飯食べちゃったし、比奈守君が来てくれたら人数的にもちょうどいいかな~って思って。あ!でも、お家の人が夕食用意してるよね。無理言ってごめんね」

 ダメだ。胸がドキドキして、頭が回らない。絶対、変なこと言ってる……!比奈守君、引いてるよね……?


 私の不安は、比奈守君の笑顔にかき消された。

「行きます。トマト鍋、食べてみたいんで」

 そう言ってはにかむ比奈守君は年相応で可愛くて、だけど男の子で、私はやっぱり嬉しくなってしまう。

「トマト鍋、初めて?」
「はい。ウチ、鍋やる時、なぜかいつもちゃんこ鍋なんですよね。力士一人もいないのに」
「あはは!ちゃんこ鍋もおいしいよね。実家でもよくやってたよ。私も好き!」
「つくねが一番活躍しますよね、ちゃんこ鍋って」

 そんなことを延々話ながらアパートに向かう。比奈守君の新しい一面が見られて嬉しかったし、楽しかった。


 離れたくない。もう少しだけ一緒にいたい。この日、比奈守君を駅で引き止めた時、強くそう思った――。



 比奈守君を連れてアパートへ帰ると、予想通り、琉生と純菜は色めきたった。

「その子、学校の生徒!?めっちゃ好み!雰囲気といい、顔といい、かっこいいな!」

 プライベートオンリーで同性愛者であることをオープンにしている琉生は、比奈守君を見て正直な自分を出し、キラキラと瞳を輝かせた。彼氏の存在は突っ込まないでおこう。

「こんばんは。大城先生のクラスの生徒で、比奈守夕(せき)と言います。すみません、急にお邪魔することになって」

 琉生の登場に最初は驚いていたものの、意外に(?)冗談が通じるタイプなのか、比奈守君はペコリと頭を下げて穏やかに自己紹介をした。

「比奈守君、初めまして。この人が琉生で、私は純菜。高校から飛星と仲良くしてるよ」
「琉生さんと純菜さん、初めまして。今日はよろしくお願いします」

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