「恋って、認めて。先生」
自己紹介もそこそこに、琉生は私と比奈守君の背中をぐいぐい押して部屋に通した。
トマト鍋はすでに食べられる状態になっている。
「さっき言いそびれたんだけど、今日はもう夕食済ませちゃって……。せっかく用意してくれたのにごめんね」
二人に謝ると、琉生と純菜は、私が比奈守君をここに連れてきた理由を察してくれたようだった。純菜は笑い、
「わかったよ。じゃあ、飛星の分まで比奈守君がたくさん食べてってね」
「ありがとうございます」
最初はやや緊張気味だった比奈守君も、琉生と純菜の気さくさに慣れ、すぐにリラックスしたようだった。
私を除くメンバーで鍋をつつきながら、純菜は比奈守君に色々な話を振った。
「新しいクラスにはもう慣れた?」
「はい。2年の時から持ち上がりなんで、そこらへんは大丈夫です」
そう。南高校は三年生のクラス替えはなく、二年生の頃と丸々同じクラスで始業式を迎えることができる。レクリエーションでの班決めを自由にさせたのもそのためだった。
「そっか。なら、友達もいて楽しいよね」
「はい。今日もレクリエーションがあったんですけど、先生のおかげで皆楽しいって言ってました。先生が担任で、良かったです」
比奈守君から出た思わぬ言葉に、お茶を飲む手が止まってしまった。
水族館で泣き顔を見られたり、永田先生に告白されたことを打ち明けたり、今日はみっともないところばかりを見せてしまったというのに、そんなことを言ってくれるなんて思わなかった……。
「飛星のクラス、楽しいんだ」
そこへ、琉生がきわどい質問を挟んだ。
「女の先生って、男子生徒からするとどんな感じなの?安心感だけってこと、ないだろ~?」
「えっ…!?」
私以上に、比奈守君の方が動揺していた。食べるのをやめ、視線を泳がせている。
その先に続く言葉が気になるのに、聞くのが怖くなって、私は話題をそらそうとした。
「比奈守君、グラス空になったね。何飲む?」
「すいません、お茶下さい」
「はーい」
そんなやり取りをする私達に意味ありげな視線を送り、琉生は言った。
「自分で言うのも何だけど、おれっち、一目見ただけで男の本質を見極める力があるんだよ。同性だからかな?その神がかった観点から言わせてもらうと……。比奈守君って、一見草食系なのに実は肉食……みたいな感じがする。そう!あの、何だっけ、『ロールキャベツ男子』ってやつ!」
「……そうかもしれないです。琉生さん、すごいですね」
微笑しそう答える比奈守君が突然セクシーに見えて、私はドキッとしてしまった。教室では見たことのない、男の人の顔。