「恋って、認めて。先生」
琉生と純菜も比奈守君の様子に何かを感じたのか目を見合わせ、その後私に視線を移してきた。
二人の言いたいことが何となく分かり、私は勢いよく立ち上がった。
「さあさあ、盛り上がってるとこ悪いけど、比奈守君はそろそろ帰る時間ね。私、送ってくから」
悪気はないんだろうけど、これ以上琉生に会話の主導権を握らせるわけにはいかない。比奈守君も変に思うかもしれないし……。
私の考えを読んだ上であえて無視したのか、琉生は車のキーをシャランと慣らし比奈守君をうながした。
「だったらおれっちが送ってくよ。もう21時過ぎてるし、今日、ちょうど車で来てるし」
お酒を飲まない日、琉生はたいてい車でウチに来る。そういえば、今日琉生は一滴もお酒を飲んでなかった。
「純菜も送ってくぜ。明日も朝から仕事だろ?」
「ちょっ、琉生!」
「飛星、悪いけど後片付け頼むな」
「それはいいけど、比奈守君は私が……!」
「女を出歩かせる時間じゃないだろ。おれっちに任せろって」
セリフだけ聞くと頼もしい男友達感で溢れているけど、琉生は妙に楽しげ。あれは絶対何かを企んでる顔だ!幼なじみだからよく分かる!
比奈守君は「ごちそうさまでした」と言い、琉生についていく。二人がアパートを出た後、
「琉生が変なこと言ったらフォローするから、安心して」
純菜はそう言い残し、私に手を振ると琉生達を追った。
私のいない場所で琉生と比奈守君を接触させるのはちょっと心配だけど、ここは純菜を信じて見送るしかなさそうだ。
ベランダに出て、外の三人に手を振った。比奈守君はペコリとおじぎをし、琉生の車に乗り込む。二人は何か話してるけど、この距離からは彼らが何を話してるのかまでは分からない。
気になる……。私もついていきたかった…!
もんもんとした気持ちと、楽しかった鍋のことを思いながら食器を片付けた。
「さっきまでここに比奈守君が居たんだなぁ……」
比奈守君の座っていた場所を見つめ、胸があたたかくなるのを感じた。
プライベート空間に彼を呼んだ。それは、相談を聞いてもらったお礼なんかではなくて、ただ、そばにいたかったから。
男の人だけじゃない。女の私にも下心があるんだよ、比奈守君――。こんな担任で、ごめんね。