「恋って、認めて。先生」
その夜、私はとても幸せな夢を見た。内容は覚えていないけど、安心感とぬくもりで満たされる、そんな夢だった。
翌日、職員室の自分の席に行くと、隣の永田先生はまだ来ていなかった。普段は私より先に来ているのに。
やっぱり、昨日の告白の件が影響しているんだろうか。
気配のない永田先生の席を見て、私は現実に引き戻された。昨夜からの刺激的非日常がウソだったように感じてしまう。
永田先生に告白された後、ろくに返事もせず一方的に店を出てきてしまった。いくら何でも、あれは感じ悪かったよね……。過去の失恋による私の複雑な胸の内なんて、永田先生は知らないのだから。
永田先生に会ったら昨夜のことを謝り、告白の返事もちゃんとしよう。これからもいい同僚でいたい、恋愛する気がない、そうはっきり伝えるんだ。
永田先生と顔を合わせた時のことをシミュレーションしているとどうしても緊張してしまい、手のひらに汗がにじんでくる。
早く会って話をしてスッキリしたいのに、始業時間ギリギリまで待っても永田先生は出勤してこなかった。
永田先生に会えたのは、昼休みになってからだった。
昼食を終えて資料室で午後の授業の準備をしていると、人目を避けるように永田先生がやってきた。
「永田先生…!今日はお休みされるのかと思ってました」
「昨夜、実家の祖父が倒れてね。病院に付き添ったりしてたから、学校へは今さっき来たとこなんだ」
永田先生は少しだけ疲れた顔をしている。
「それは大変でしたね……」
「もう大丈夫だよ。ただの貧血だから、入院も一日で済むって」
「大事に至らなくて良かったですね」
「ありがとう」
沈黙が訪れる。永田先生もおじい様のことで大変だったのにこんなことを考えるのはひどいけど、永田先生が半日休んだのが私のせいではないことにひどく安心してしまう。
「昨日はすみませんでした。せっかく食事に誘っていただいたのに、あんな失礼な態度を取ってしまって……」
「いや、気にしないで。あんな話したら、女性なら誰だって軽蔑すると思うし。僕こそ大城先生を困らせたよな。ごめん」
「いえ……」
永田先生が意外と冷静だったことにホッとし、私は用意していたセリフを口にした。
「私なんかに好意を持って下さり、本当にありがたいと思います。でも、私はやっぱり恋愛する気にはなれないんです。今後もそれは変わりません。なので、ムシのいい話かもしれませんが、これからも今までのように接していただけたら嬉しいです」
「……本当に、それだけ?」
永田先生はいぶかしむように私を見た。その視線に、ヒヤリとする。