「恋って、認めて。先生」
「その様子だと気付いてないんだね」
「何をですか……?」
「昨日、あれから僕は大城先生を追いかけたんだ。そしたら、駅前の公園で生徒と仲良さげに話してた。あれ、水族館で一緒だった生徒じゃない?名前はたしか…比奈守君」
比奈守君と居るところ、永田先生に見られてたんだ!まさか、追いかけられてるなんて思わなかった……。
うまい言い訳が思いつかず、黙りこんでしまう。
「彼のことが好きなんだろ?見てたら分かる」
「違います!昨日も、彼とはたまたま会っただけで…!」
「偶然会った。そうなんだとしても、端(はた)から見て、あれは生徒と教師の距離ではなかったよ。男女の空気だった」
「……!」
「好きなんだろ?彼のことが」
永田先生はいつになく冷たい。その視線や言葉に、私はむしょうに腹が立って、同時に責められているような気がして、強く言い返してしまった。
「昨日の私達が永田先生にどう映ったのかは知りませんが、私は彼を生徒として大切に思っています。そんな風に決めつけないで下さい!」
「決めつけてるのは大城先生の方だろ?『自分は決して恋なんてしない』って。恋愛感情は自分の意思でどうこうできるもんじゃないのに、自己暗示でもかけるみたいにそんなことばかり言って……」
「ですが…!」
「好きになるのに、立場は関係ないよ。僕もそうだった。最初は、君への気持ちを認めたくはなかったんだよ……。それでも、好きだと思った。長年付き合ってきた彼女の存在が邪魔になるくらいに」
永田先生は言った。
「君も、認めたら楽になれるのに」
「そんな、私は……!」
「まあ、望みはないだろうけど。相手は生徒だし、現実から目をそらしたくなるのも分かるよ」
「…………」
「ごめん、意地悪言った……。大城先生のことは教師としても好きだし、今後普通に振る舞えるよう、努力するよ」
最後、困ったように笑い、永田先生は資料室から出ていった。
――恋に落ちるのは一瞬。琉生の言っていたことを思い出し、胸が痛くなった。
本当だね。恋は、自分の意思に関係なく勝手に落ちてしまうもの。悔しいけど、永田先生のトゲのある言葉に、まったく反論できなかった。
私は、比奈守君が好き――。
嬉しいのに、気付いたとたんに打ちのめされる。これは、許されない恋だから……。
『望みはないだろうけど』
永田先生の一言が、鋭く心に突き刺さっていた。
「言われなくても分かってるよ…!」
昼休みが終わる頃、スマホにショートメールが届いた。しかも、知らない番号から。
《皆が帰った後、教室で話したいことがあります。先生の仕事が終わるまで待ってます。 比奈守》
比奈守って、あの比奈守君だよね?どうして私の番号知ってるんだろう!?もしかして、昨夜の帰り、琉生に聞いたとか?
それに、改まって話って何だろう?恋愛相談とかかな。
それだったら行きたくないけど、担任として教え子からの呼び出しを無視するわけにはいかない。もしかしたら、進路相談かもしれないし!
五月に行われる三者面談のことを考えながら、私は放課後を待った。