「恋って、認めて。先生」
無言で考え込む私を見て、比奈守君は謝った。
「すみません、困らせてますよね……。先生に好きな人がいてもいいです。それでも俺は好きだから」
比奈守君の瞳。そこに映る感情は苦しくなるほど綺麗で、胸がしめつけられる。
「困らせるの分かってたし、俺は生徒だし、まだ知り合ったばかりだし、こんな気持ちすぐになくなると思ってました。でも、消えてくれない……」
「どうしてそこまで?私の何が良かったの?七つも年上なのに……」
「一目惚れです」
比奈守君は迷いのない声で語る。
「進級するたび担任に名前呼び間違われるのが当たり前になってて、今年の担任もどうせ間違うんだろうなって思ってたら本当に間違えて。慣れたことなはずなのに、先生に呼び間違われたのはどうしてかすごく悲しくて、自分でもそれが何でかよく分かんなくて。先生、俺がスネるたび、何度でも声かけてくれましたよね。そういうとこ見たらだんだん気持ち大きくなって……。初めてなんです。こんなに誰かを好きになったの……」
比奈守君の目は潤んでいた。一生懸命気持ちを伝えてくれているのが分かる。
「先生のことまだそんなに知らないけど、だから知りたいです。立場とかあるのは分かってるけど、絶対、先生のこと困らせないから…!」
ダメだ。
嬉しいけど、比奈守君の気持ちが本気であればあるほど、私は自分がこわくなる。
また誰かを深く愛してそれを失ってしまったら、もう、元には戻れなくなってしまいそうで。
「私ね、恋愛しない主義なんだ」
私は、教壇に立つ時のように引き締まった面持ちで比奈守君を見つめた。
「比奈守君の気持ちは嬉しいけど、きっと私のことなんてすぐに忘れるよ。若いし、これから先いい女性が他に現れるかもしれないでしょ?それに、担任として、私は比奈守君の将来を傷付けるわけにはいかないんだ」
「……昨日、琉生さんが言ってたこと本当なんですね」
「琉生、何か言ってたの?」
「先生、前の彼氏と別れてから恋愛に興味示さなくなったって……」
「……うん」
琉生は、きっと私のためにそんな話をしたんだ。もう傷付かないように。
「比奈守君、大人ぶってごめんね。琉生にそこまで聞いてるなら、私も本当のことを話すよ」
恋に臆病になっていた自分。
「教師だからとか生徒だからってのは建前で、もう、昔みたいに、全面的に男の人を信用するって、私には無理なんだ。そんな状態で付き合っても、比奈守君のこと傷付けるだけ。それに、うまくいかなかったら笑い話じゃ済まないし……」