「恋って、認めて。先生」

 それに、このメッセージを無視したら、取り返しのつかないことになる。おおげさかもしれないけど、そんな気がした。

 第一、生徒からのラインとはいえ、深く考える必要はないはずだ。比奈守君は私のことを諦めると言った。だから、これは、生徒と教師のなにげないコミュニケーション。そう捉えることにしよう!


 ……などと、教師的思考をした次の瞬間、ウキウキした気分で私は返事をしていた。

《さっき無事に帰ってきたよ。比奈守君は?》

 1分もしないうちに、比奈守君はメッセージを返してくれた。

《無事に帰ってます。今、忙しいですか?》
《ヒマしてるよ》
《琉生さん達は?昨日送ってもらった時、毎日先生の家に集まってるって琉生さん言ってたので》
《そうなんだけど、今日は二人とも仕事の都合で来てないよ》

 気付くと私は、普段ではあり得ないほど熱心にスマホの画面を見つめていた。一人の時間をもてあましていたのがウソだったかのように、比奈守君とのなにげないやり取りを楽しんでいる。

 比奈守君からの返信が来る前に、追加でメッセージを入れた。

《比奈守君は何してたの?》

 2分後に、返事が来る。

《勉強してたんですけど、分からないところがあったので、今、訊いてもいいですか?》
《頼ってくれて嬉しいけど、現代文以外は自信ないな〜》
《分かってますよ。現代文、教えて下さい。苦手なんです》

 そう言いながら比奈守君が画面の向こうでクスッと笑ったような気がした。勝手な想像なんだけど、それが少し嬉しかった。比奈守君、現代文苦手だったんだな。知らなかった。

《任せて!特別に個人授業をしてあげましょう!(笑)》

 調子に乗って、わざと先生ぶったメッセージを送る。すると、

《個人授業って、なんかドキッとしますね》

 なんて返信がきたものだから、私は反応に困った。今、目の前に比奈守君がいるかのように顔が赤くなってしまう。

《そういうこと言う生徒にはスパルタ指導が必要みたいだね》

 照れ隠しに送ったメッセージに、比奈守君はきっと笑いながら返信していたと思う。

《冗談ですよ。先生のスパルタになら、頑張ってついて行きます!(笑)》

 そんな返事が来たから……。


 それから2時間、私達はラインで他愛ない会話を重ねた。比奈守君が言っていた現代文の質問は、やり取り全体から見るとほんの数分で終わってしまい、勉強がメインのやり取りではなかったように思う。

 琉生と純菜がいなくて寂しかった夜は、比奈守君とのラインで楽しい時間に変わった。

 その間、お互いに夕方の告白について触れることはなかったけど、不思議と、心のつながりが深くなっていくのを感じた。

 私はやっぱり、比奈守君のことが好きなんだ。ううん、時間が経つたび、好きの気持ちが増えていく。


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