「恋って、認めて。先生」

 比奈守君のメッセージが、スマホの中に積もっていく。それにつられるみたいに、私は彼に近付きたくなった。比奈守君はどんな部屋で過ごしてるんだろう?夜ご飯は何を食べたのかな?

 ラインをしているうちに彼の顔が見たくなって、私はハッとした。

 この恋は、もう終わったんだ……。そもそも、始まってすらいなかったのかもしれないけど。

 学校を離れ、プライベートな場所でラインのやり取りをしている。私にとっては特別なことでも、比奈守君にとってはただのヒマつぶしかもしれない。高校生の子にとって、ラインをするなんて日常的なこと。相手が誰であろうと気軽にそういうツールを使えるのが若さだ。

 比奈守君との未来を明るい方に想像しそうになるたび、私は自分に言い聞かせた。私は、比奈守君にとって友達のような先生なんだ、と。


 グルグルと考えていたら、気楽にしていたやり取りを途絶えさせてしまっていた。長い時間返信しなかったからか、比奈守君は、

《先生。もう寝た?》

 と、質問してきたけど、私はあえて返信しなかった。これ以上続けていたら、夢中になって寝れなくなってしまいそうだったから。

 ここでまた、私は思う。比奈守君と同い年だったら良かったのに。先生という立場じゃなかったら、ストレートに好きだと言えたのに。

 ……比奈守君のようにまっすぐ「好き」と口に出来ない自分が、今はただ悲しいーー。


 比奈守君とラインができて楽しかったという気持ちと、このままじゃダメだ距離を置かないとという焦り。

 その日は、あまり眠れなかった。


 翌日、朝のショートホームルームで比奈守君の視線を感じたけど、わざと気付かないフリで教壇に立った。

 出欠を取り終わり、日直の子が起立の声かけをすると、一部の男子生徒が何やらざわつき始めた。彼らは私の方を見て、

「田宮があっちゃんのこと好きなんだって〜!」

 と、からかうように言った。田宮君はこのクラスで一番人懐っこい男子生徒で、レクリエーションの時も真っ先にお菓子をくれたり気負わず話しかけてくれたりと、教師にも壁を作らない子である。

 彼の存在がクラスの雰囲気を明るくしている。私も、田宮君には好感を持っていた。でも、そういう話を聞いてしまうと、やっぱり対応に困ってしまう。

「田宮、ホントのこと言えばー?今日はあっちゃん、5時間目まで来ないしさぁ」
「お前ら、黙れっ!」

 田宮君は慌てふためき、男子達のからかい発言を鎮めようとしている。

< 39 / 233 >

この作品をシェア

pagetop