「恋って、認めて。先生」
「あっちゃん、今の話、違うからね!?」
田宮君は声をひっくり返しながら、彼らの言葉を否定した。私は平然を保ちうなずく。
「大丈夫だよ。分かってるから」
そこで、タイミングを待っていた日直の子が「礼。着席」と号令をかけてくれたので、田宮君をからかう周囲の声も落ち着いた。
何事もなかったかのように教室を出て職員室に戻ると、次の授業の支度にとりかかっていた永田先生と鉢合わせた。あまり顔を合わせないよう気を付けていたのに……。
隣の席だから仕方ない。そう思いながら落ち着かない気分で自分の席につくと、永田先生は普通に声をかけてきた。
「おはよう。今日も元気?」
「はい。おかげさまで」
以前と何ら変わらないやり取り。だけど、冷ややかだった先日の永田先生の言動を思い出すと、どうしても身構えてしまう。
とはいえ職場で私情を持ち込むわけにもいかず、私も今まで通りの対応を心がけた。そのおかげか、永田先生はそれ以上何か言ってくることはなく、あくびをしながら「今日も頑張るかー!」と言い、職員室を出て行った。
何気なく隣の永田先生の机を見て、私はドキッとした。そこには、職員室用の新聞が置いてあった。
《生徒との交際が明らかになった高校教諭、懲戒免職に。保護者の通報にて発覚》
紙面には、大きな文字でそう書かれていた。……永田先生は、わざと私から見える位置にこれを置いた?
そう考えたら止まらず、永田先生に嫌悪感が湧いた。でも、すぐに、冷静になった。永田先生のしていることは間違っていない。
教諭と生徒の間でトラブルが起きることを、私達教師は常に恐れている。保護者からの抗議も恐いし、出来ることなら無難に教師生活を続けたいと願っている。
生徒と関係を持つなんて、私は絶対しないと思ってきたけど、ここへ来て、こういうニュースは他人事ではないなと痛感した。永田先生は、私が傷付かないよう、遠回しに注意してくれているんだ。
例えば、今、私が比奈守君と付き合って、それが周りの人達にバレたら、面白おかしくウワサされるのは私だ。ウワサだけならまだしも、最悪の場合職まで失う。比奈守君の立場を考えプラトニックな関係でいたとしても、周囲の人々に交際が知られたら、絶対、そんなのは信じてもらえない。
比奈守君の告白は断った。それなのに、こういう記事を見てしまうと、色々とリアルな想像をしてしまう。