「恋って、認めて。先生」
そんなこと言わないで!私、比奈守君とのライン楽しかったよ!
……そう返したいのに、私の手はスマホを握りしめたまま固まってしまう。今朝見た新聞記事の見出しが何度も頭の中で繰り返し流れ、忘れられない。
これは、してはいけない恋なんだ。
《そうだね。その方がいいと思う。でも、比奈守君とのライン楽しかったよ。色々と相談してくれてありがとうね。先生として、少し自信がついたかも(笑)》
精一杯考えて、そう返事をした。傷付けないように、今後も教室で気まずくならないように。
そのやり取りを最後に、比奈守君からメッセージが送られてくることはなかった。
夜、待ち合わせ場所の駅で、純菜や琉生と合流した。琉生が車を出してくれる手はずになっていたので、純菜と私はそろって、琉生の車の後部座席に乗り込む。
「昨日は一人で寂しかったか?もう安心していいぞ。今日は遅くまで楽しむから!」
普段から明るいけど、今日の琉生はやけにテンションが高い。純菜も、いつになくソワソワしている感じがする。
「飛星、元気ないね。学校で何かあった?」
「ううん、大丈夫。ちょっと眠たいだけ」
純菜に顔を覗き込まれ、私は慌てた。いつも通りにしていたつもりなのに、やっぱり二人には隠せない。比奈守君からもうラインしないと言われてから、自分でも信じられないくらいショックを受けている。
告白を断ったくせに連絡だけ取り合いたいなんて、都合が良すぎるのは分かってるんだけど、それでもやっぱり寂しい。
「比奈守君と何かあった?」
純菜は私の気持ちを見透かしたようにそんな質問をしてくる。どうして比奈守君絡みって決めつけるの!違うって!そう言い返せていた時が遠く感じる。私は認めた。
「実は昨日、比奈守君に告白されて……」
「えっ!?」
二人の驚く声が重なる。それまで安定した運転をしていた琉生は、よほどビックリしたのか信号前で急ブレーキを踏んだ。その勢いで、後ろに乗っていた純菜と私の体も大きく揺れる。
「琉生、驚きすぎ!」
「そりゃ驚くって!まさか、そんな早く告白するとは思ってなかったし」
琉生は言う。
「まあ、そうなることを見越して飛星の事情を彼に話したんだけどな」
「私は止めたんだけど、琉生、聞いてくれなくてさ。ごめんね、飛星」
謝る純菜に首を振り、私は色々と納得した。比奈守君を家に送り届けた夜、琉生は私の失恋話を比奈守君にしていた。比奈守君と私が「どうにかなる」ために。