「恋って、認めて。先生」
「う、うん……」
頬の熱さをそのままにそう返すと、お父さんは意味ありげな視線を比奈守君に移した。
「いっちょまえな事言うようになったなぁ。夕も」
「お父さん、そのくらいにして。担任の先生の前よ」
冗談なのか本気なのか分からないお父さんの言葉をお母さんが止めたところで、私達は店を出ることにした。私はご両親に頭を下げ、
「今日は本当にありがとうございました。おやすみなさい」
「先生達、琉生さんの車で来てるんですよね?駐車場まで送ります」
「店に出るの面倒くさがってたクセに今日はやけにやる気だなぁと思ったら……。お前、先生に惚れてるだろ〜?」
最後尾の比奈守君が店の扉を閉める直前、お父さんの明るい声が聞こえたけど、私は聞こえていないフリをした。純菜や琉生にも聞こえていたんだろうけど、それについて比奈守君が何も言おうとしないからか、二人も突っ込んだりはしなかった。
「この時間、そこの大通り混むんで、気をつけて下さいね」
「ありがとな!でも大丈夫、おれっち、免許取って以来無事故無違反だから」
琉生と比奈守君がそんなやり取りをしている間に、純菜と私は琉生の車にそろって乗り込んだ。
「今日はありがとな。また来るから、比奈守君も飛星んち遊びに来いよ!」
当然のようにサラッとそんなことを言う琉生。私はすかさず反対意見を主張した。
「私達がお店に行くのはいいとして、比奈守君をアパートに誘うのは問題あるよ!ダメ!絶対!」
「飛星はほんと、頑固だなぁ。素直になれば楽しいのに」
あまり真剣に聞いていないのか、琉生はヘラヘラと笑うだけ。告白されて断って、その相手を部屋に呼ぶなんて、私をとれだけ小悪魔にする気なんだ、この幼なじみは!
情けないところばかり見せてしまった。最後くらいは先生らしく締めくくろう。
「比奈守君も、今夜はお疲れ様。仕事が終わったらゆっくり休んでね」
「はい。先生達も、お疲れ様でした」
琉生と純菜も比奈守君にバイバイし、車は発進した。比奈守君の姿が見えなくなるまで、私は後部座席のガラス越しに後ろを向いていた。
比奈守君の店と私のアパートは、車移動だと30分かかるかかからないかというくらい近い距離にあった。
家まで送ってもらったら今日はそこで解散かと思っていたけど、琉生と純菜は習慣のように私のアパートへ直行した。買い置きしておいたアイスクリームを食べつつ、私達は話をした。
「比奈守君のお父さん、ノンキそうに見えてけっこう鋭いよな」